松尾スズキ
○○の数だけセックスは減る。[第五回]
「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第五回は親しき仲にも礼儀あり。夫婦の緊張感を脅かす、あの行為について。イラストは近藤ようこさんです。
放屁。
と、『GINZA』というお洒落雑誌のコラムでタイピングする勇気。それが出るまで、7分かかった。
僕も、そこそこ分別のある歳になって来たので、『GINZA』で放屁はちょっとなあ、とためらいもするわけだが、夫婦のことを考えるとき、放屁問題は避けて通れない通過儀礼だとも思う。
うちの父は(身も心も九州男児)、ところかまわず放屁をする男だった。
「うぇっとこらしょい!」
わけのわからない掛け声をかけながらステテコの尻を浮かせて「ぶっ!」、そして「っと、ちくしょう」と、これもよくわからない捨て台詞。
それを気に留めるものはいない。
が、小学生でジュリー・アンドリュースに初恋し、中学になってYMOで音楽に目覚めた僕は、
「あんな大人にだけはなるまい!」
と、放屁父を見るたびに心に誓ったものだった。放屁が普通に食卓に流通するような家庭。多感な少年には耐えがたいことだった。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。
17083
false
この連載について
松尾スズキ
東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む
著者プロフィール
1962年福岡県生まれ。作家、演出家、俳優、脚本家、映画監督。88年に「大人計画」を旗揚げし、97年『ファンキー! 宇宙は見える所までしかない』 で第41回岸田國士戯曲賞、2001年ミュージカル『キレイ’—神様と待ち合わせ下女』で第38回ゴールデンアロー賞、06年『クワイエットルームにようこそ』が第134回芥川賞候補作となり、’08年には、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞、’10年『老人賭博』で第142回芥川賞候補。
今年の8月10日から10月7日まで、東京、名古屋、大阪、福岡、松本、パリで大人計画の最新公演「業音」を作、演出、出演。 メルマガ「松尾スズキの、のっぴきならない日常」http://www.mag2.com/m/0001333630.html