松尾スズキ
妻は僕より友達が増えていた。[第四回]
「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第四回は夫が不在時の妻の寂しさについて。イラストは近藤ようこさんです。
私の妻M子は「寂しい寂しい」、と言っていたのである。
まあ、それはそうだと思う。入籍した5日後には、僕は、映画監督の仕事で福島に1か月も行きっぱなしになってしまったのだ。彼女は、茨城の箱入り娘で、東京に住んだことがない。だから、東京にほとんど友達がいない。専業主婦なので、やることもあまりない。
なので、撮影休日は、決まって僕が泊まっている福島は奥会津、の宿まで、愛車ボルボを3時間半ブッ飛ばして来るのだった。
とにかくM子はどこにでも車をブッ飛ばして来る。
結婚したとき、「相手は普通免許を持った一般の人です」とTwitterで発表して「なんだそれ?」と物議をかもしてしまったが、茨城から毎度車をブッ飛ばして東京に来る彼女が、免許のない僕にしたら、車庫入れする姿なんかも含め、なかなかかっこよく、ついなんとなくそう書いただけのことだ。
柳津に来るうち、M子は宿の女将たちやスタッフとあれよあれよ仲良くなった。M子は僕の周りのたいがいの人に気に入られるという特技を持っている。人と仲良くなるのに非常に時間のかかる自分には、それもうらやましい。
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この連載について
松尾スズキ
東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む
著者プロフィール
1962年福岡県生まれ。作家、演出家、俳優、脚本家、映画監督。88年に「大人計画」を旗揚げし、97年『ファンキー! 宇宙は見える所までしかない』 で第41回岸田國士戯曲賞、2001年ミュージカル『キレイ’—神様と待ち合わせ下女』で第38回ゴールデンアロー賞、06年『クワイエットルームにようこそ』が第134回芥川賞候補作となり、’08年には、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞、’10年『老人賭博』で第142回芥川賞候補。
今年の8月10日から10月7日まで、東京、名古屋、大阪、福岡、松本、パリで大人計画の最新公演「業音」を作、演出、出演。 メルマガ「松尾スズキの、のっぴきならない日常」http://www.mag2.com/m/0001333630.html