北尋坊で自殺しようとしていると勘違いされ、ゾンビ先生に救われた青年ひろは、流されるまま「哲学」を学ぶことに。いよいよ、ゾンビ先生の哲学授業のはじまりはじまり。
「哲学は、科学や数学ほど役に立たない」は間違い
東京シティに戻ったひろが、ゾンビ先生から第一回目の授業の場として指定されたのは、渋谷区下北沢にあるファストフード店・ファーストキッチンの店内であった。
「ひろ〜! こっちじゃ!」
先日全焼したはずのおかっぱカツラを装着し再増毛を遂げたゾンビ先生が、テーブル席から手を振っている。
「ゾンビ先生! こんにちは! 新しいカツラつけたんですね〜〜すごく似合ってないです。そういえば後頭部の粉砕の件はどうなりました?」
「その件は解決じゃ。割れた骨は取り除いて、セラミック製の人工骨に入れ替えたから。皮膚も張り直したが、今後に便利なようにファスナー式にしてもらったんじゃよ。ほら」
言うとゾンビ先生はカツラを外してつるっぱげになり、耳上に据えつけられたファスナーを頭頂部経由で一周して反対側の耳まで開いて見せた。頭皮の後ろ半分がめくれてフードのようにぶらさがり、真新しい頭蓋骨があらわになる。
「ちょおっ!! 待った!! ダメ! ここではダメッ!!!」
ひろはゾンビに飛びかかると、その頭部をトレイで必死に隠した。しかし所詮平たいお盆でカバーできるのは一方向だけ、トレイ上のクリームソーダが宙を舞ったこともあり、四方の客が一斉に二人へ目を向ける。
……しかし、ひろの焦りもよそに、客は誰一人として驚いた様子を見せない。騒ぎを聞きつけやってきた女性店員も、謝るひろに「大丈夫ですよ〜」と笑顔を向けつつ床のソーダをさらりと片づけて帰っていった。
「あ、あれ? どうして? 今、絶対見られたよね? 後頭部がずる剥けて骨丸出しのところ見られたよね?」
「哲学ゾンビ」って普通のゾンビとどう違うの?
「慌てるでないひろよ。『イドラの呼気』を放っておるから心配は無用じゃ」
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