お前、合コンしてみたいって言ってただろ

周りが大学に合格した中、1人だけ2浪することになった小森谷くん。ようやく危機感が芽生えた彼は、次の一年を真面目に勉強して過ごす。そんな受験勉強で疲れていた彼を遊びに連れ出してくれていたのは、高校からの親友、土岸だった。
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

 土岸は中央大学の夜間学部に入学を決めた。

 家から近い大学、という理由で、最初から中央大学以外は受験しなかったらしい。

 そういう選び方もあるのか、と小森谷くんは驚く。

 化学の得意なあの子は、早稲田には受からなかったが、第二志望の大学へ行くことになった。

 その他、浪人していたほとんどの友人は、志望校に合格したか、第二、第三志望に合格したか、あるいは滑り止めの大学に合格した。

 周りで二浪を決めたのは彼だけだ。彼はその春、また何からも卒業することができなかった。

 遅すぎるのだが、彼にもようやく危機感が芽生えていた。

 自分だけが、とてつもなく取り残されてしまった気がした。親にも申し訳なくて、泣きたくなる。

 だけどやるしかない。だけどやるしかない、と彼は何度も自分に言いきかせる。

 ここからの一年、彼はかなり真面目に勉強することになる。

 一人で電車に揺られ、一人でものを考え、今までの自分の態度を反省したりもした。ときどき“仁義”のことを考え、自分がどうなりたいか、自分がどうありたいか、

を考えるようになった。

 春、夏、と勉強だけを続ける毎日だった。ときどき土岸が彼を連れだしてくれた。日野や立川の居酒屋で、彼らは高校生のときと同じように騒いだ。

「なあ、俺らもう二十歳だぜ」

 土岸はたいてい女の子と一緒だった。

 過去の失恋キャリアが活きてきたのか、土岸は大学に入ってからモテまくっていた。

 まずは女の子の相談にじっくりのってあげて、そのまま付きあってしまうという、トラディショナルな手法を、土岸は愚直に繰り返している。

 女の子の前で二浪の彼をさんざんイジり、大学の楽しさを語り、それでも土岸は最後に「頑張れよ」と、彼の肩を叩いた。

 そんなにお金を持っているようにも見えなかったが、彼の分の酒代も出してくれた。家に戻った彼はまた一人、勉強を再開する。

 夏が終わると秋になり、秋が終わると冬になった。やがて試験の本番を迎えた。

 物理学科のある五つの大学を、彼は受けることにした。

 半分はC判定に漕ぎ着け、B判定の出た大学もあった。後のない本番に緊張しながら、彼はペンだこのできた右手で、シャープペンシルを握る。

 巨大なプレッシャーの中、一つの試験が終わると次、終わるとまた次、と試験は進んだ。最後に残ったのが第一志望、早稲田大学だった。

 重圧と焦りを背負いながら、彼は着々と問題を解いていった。

 数学はまずまずの出来だった。よし、と、彼はシャープペンシルを握り直す。英語も特に問題なく、苦手の化学もまあまあだった。

 だけど最後の科目、一番得意なはずだった物理は、受験疲れもあってか、全く解けなかった。

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余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

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