ココロ

第1回 scene 00 : プロローグ

ニコニコ動画での再生回数180万回を誇るボーカロイドの名曲を基にしたノベル版『ココロ』を一部公開します。
A.D.2501:世界は“ココロシステム”を巡り、争いを続けていた。数百年放置されていた廃墟で発見されたのは……?

ノベル第2弾『ココロ―再会―』も発売中です。

 

♪180万回再生の名曲『ココロ』♪

A.D.2501

「隊長ォーッ!
 暗闇の中で兵士が叫び、小銃を構える。
 彼が銃口を向けた先には、一人の少女が立っていた。
 声を聞いたほかの兵士たちも一斉に銃を構え、少女に狙いを定めた。
 暗視ゴーグルを通した彼女の姿は緑色の闇に白く浮かび上がり、その躰の上を幾筋もの光芒が撫でているように這う。

「動いてるぞ!」
 少女はややうつむき加減の顔を、ゆっくりと上げた。真っ白く光った髪にリボンが揺れる。無表情に見開いた目が、銃の先端から放たれた赤外線レーザーを反射して煌いた。
 彼女が動き出すことなど、あり得なかった。
 この建物は無人になってから既に数百年が経過している。電力はおろか、あらゆるエネルギー供給が絶たれた廃墟なのだ。動くものなど、あるはずがない—にもかかわらず、少女は自らの力で立ち、兵士たちを睥睨するかのようにゆっくりと辺りを見回したのである。
 その凛とした立ち姿は幻想的ですらあった。彼女の着ているチュニックも、赤外線を受けて白く輝いた。兵士たちは皆、吸い込まれるように少女に見入ってしまっている。目の前の光景のあまりの現実感のなさに、まるで天使がそこにいるような錯覚さえ起こした—。

「全員その場で待て!」
 そう言って左手を挙げ、動揺する兵士たちを制したのは、この小隊の隊長である。彼は右手に持った小銃からまっすぐに伸びる赤外線レーザーを、少女の額に宛てたままジリジリと距離を詰めた。近づくにつれ、その姿はより鮮明に映る。
「……間違いない、<目標>だ」
 隊長は、ヘルメットに取りつけられたレシーバーの送信周波数を切り替え、
「こちらアルファワン、<目標>を発見—」
 落ち着き払った、冷静な声でマイクに向かって話した。レーザーは彼女の額に当てたままだ。
「ブラボー中隊はポイント43141へ急行されたし」
 少女が声に反応して目を動かした。彼女は焦点の合わない視線を中空に放って、しきりにまばたきをしている。
≪……アルファ小隊……こちら……≫
 返信にはゴボゴボとノイズが混じった。妨害されているのかもしれない。
「こちらアルファワン、<目標>を発見した!」
 隊長がそう繰り返したとき、少女と目が合った。
 その直後—。
 少女は糸が切れたマリオネットのように、背後の椅子に力なく倒れ、それっきり動かなくなった。

 張り詰めていた空気は次第に弛緩し、やがて兵士たちは銃を下ろした。そして、ゆっくりと少女の周りに集まった。
 隊長はもう一度レシーバーに向かって状況を伝える。
≪了解……ブラボー中隊……急行します≫
 相手の復唱を確認すると、少女の傍らに立ち、
「どうして動いた?」
 傍にいる兵士に訊いた。
「わかりません。エネルギーは来ていないはずなんですが、もしかしたらジェネレータと反応したのかも」
「こいつ、ジェネレータのエネルギーを受け取れるのか?」
 隊長は少女の顔を見て言った。
「この時代の動力は有線ですから、それはないと思うんですが—」
 その兵士も、じっと少女の顔を見つめている。
「美しい……」
 つぶやいたのは隊長である。
 少女は目を閉じて、眠っていた。彫像のように整った顔立ちは、思わず口に出してしまうほどの神々しい美しさだった。
 彼女が“生きていた”頃には、その美しい顔に豊かな表情を浮かべていたであろうことが、ゴーグル越しにも見てとれた。
「もしこれが、本当に俺たちの探しているものだとしたら。もしこれが、本物の、人間のココロを持ってるとしたら……」
 隊長は誰に言うでもなく。しばらくの間立ち尽くしていた。

 

 

 

 

登場人物

二号機
平田製作所 第二研究室で開発されているヒューマノイド型ロボット。外見は14歳くらいの少女で、152cmの小柄なボディに最新技術を惜しみなく詰め込んでいる。搭載している人工知能を使った言語エンジンの新機能を「ロボットテクノロジー展2012」で披露予定。

天本(あまもと)
平田製作所 第二研究室 室長。大学に在籍中にヒューマノイド研究プロジェクトに参加。そこに関わっていた平田と縁があり、現在は平田製作所にて二号機の開発に携わっている。うまい棒をよく食べる。

平田(ひらた)
平田製作所 社長。元々は大学で教授をしていたが、関わっていたプロジェクトが頓挫したあと、それを引き継ぐ形で製作所を設立し、大学を去った。趣味はゴルフ。

町子(まちこ)
平田製作所 第二研究室 研究員。第二研究室の紅一点で、仕事もできる女性だが、多忙ゆえなのか、身だしなみや言葉遣いなどに気をつかうことは少ない。イケメンが嫌い。

佐原(さはら)
平田製作所 第二研究室 新人研究員。二号機に「下っ端」と認識され、暴力をふるわれる日々だか本人はまんざらでもないらしい。イケメンということで町子からも八つ当たりを受けている苦労人。

岸田(きしだ)
平田製作所をやめた元研究員。天本や平田とは大学時代から繋がりがあり、ヒューマノイド型ロボットの研究に情熱をかたむけていた。“ココロシステム”の研究を復活させようとしている。

 

 

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ノベル化第1弾 『ココロ』 

 

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プロフィール

原作:トラボルタ
2007年12月、ニコニコ動画に『ピンクスパイダー』を投稿しボカロPデビュー。キャラクター・ボーカル・シリーズ02「鏡音リン」を使用し、”伝説の RINマスター”というタグがつくほど調声レベルが高い。温かみのある曲調と物語的な歌詞で、優しく励まされるような楽曲には定評がある。

著:石沢克宜
脚本家。ライター業や映像制作などを経て、現在は舞台の脚本を中心に活動している。舞台版『ココロ』の脚本・演出を担当し、ドワンゴ主催のニコニコミュージカル『ニコニコ東方見聞録』にも参加。コミカルでテンポのよい舞台に定評がある。ノベル版『ココロ』では舞台の脚本をベースに新たな物語を書き下ろした。

イラスト:なぎみそ
VOCALOIDブームの初期から活動するイラストレーター兼デザイナー。ニコニコ動画では『炉心融解』(作曲:iroha(sasaki)、作詞:kuma)のPVを担当し、リアルとデフォルメが混ざり合った世界観が話題を呼んだ。多数のCDジャケット、フィギュアのデザインを手がける。ノベル版『ココロ』ではイラスト・キャラクターデザインを担当。

 

ケイクス

この連載について

ココロ

トラボルタ /石沢克宜 /なぎみそ

ニコニコ動画で再生回数180万回を超えるボーカロイド・鏡音リンオリジナル楽曲『ココロ』。物語性の高い歌詞が魅力で、舞台化、ミュージカル化、小説化されている伝説の名曲です。5月27日のノベライズ第2弾『ココロ―再会―』(PHP研究所)の...もっと読む

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PHPcomix cakes(ケイクス)にて『ココロ』の連載がはじまりました! 第1回は無料公開ですので、まだ読まれていなかった方はぜひこの機会に(・ω・)ノ 5年以上前 replyretweetfavorite