夜の世界で生きる女性たちが気になっていた。
繁華街の店先に並ぶ、あでやかな女性たちの看板写真。白く飛ばした肌、ぱっちりと見開かれた目、グロスで輝く唇。看板の中で微笑む彼女たちは、何を見つめているのだろう。客を楽しませて癒すこと、「与える」ことが彼女たちの仕事なのだ。
私は「与える」という行為が苦手だ。飲み会など小さな場を「盛り上げる」ことも、友人を会話で「楽しませる」ことも。そういった「与える」役割を避け続けてきた。
苦手というよりも、怖いのだろう。行動する前から、相手に試されているようなプレッシャーを感じて、ひとりでに心が折れてしまう。結果、飲み会では縮こまり、聞き役に回ることがほとんどだ。
さらには恋愛で「尽くす」ことまで苦手な始末。いつも恋人の顔色をうかがって、ソワソワ、ピリピリ、イライラ。好きな相手だからこそ、神経質になりすぎてしまう。
人に「与えられる」ことも得意ではない。干渉されるのが鬱陶しくて、親切にしてくれた相手に距離を置いてしまうこともしばしばだ。「不器用」と言えばまだ聞こえがいいが、要するに、独りよがりで身勝手な人間なのだろう。
だからこそ、お客さんを喜ばせる「与える」職業がまぶしくて仕方がない。ステージで歌い踊るアイドルも、音楽家も、ダンサーも、舞台に立つ人々は、存在そのもので人に希望を与えている。「与える」ことに迷いがない。誰かの欲望や期待を一身に浴びながら、それに飲まれることなく、自分自身を貫いている。舞台と客席の間には、「与え合う」という豊かな循環が見える。
非日常を覗いてみたい好奇心と、美しい女性を見たい気持ちが高まり、私は生まれて初めてストリップ劇場に行ってみることにした。
なんだこの光景は
「お疲れさまです」
都内の書店の前で担当編集者N氏と落ち合う。妙な心地である。平日の夕暮れどき、明るい道を涼しい顔で歩いているが、私たちはこれからストリップを観に行くのだ。知人を誘ったものの、二人とも当日都合が悪くなり来られなくなった。まさかN氏と二人きりで鑑賞することになろうとは……。