余命2か月っていわれたけれど、今はもうお酒も飲んでいる

編集者が取材のために引き合わせたのは、一見普通の青年だった。感じがよくて、真面目そう。そんな青年、小森谷くんには普通ではない過去があった。「余命2か月って言われたんですよ。――でも、生き残っちゃいましたけど」
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

 それから三ヶ月くらい経ち、編集者から連絡が入った。

 彼が最近知りあった若者に会ってみないか、という誘いだった。ええ、わかりました、と、僕は答える。

 ともかくあなたの話を聞かせてくれ、それをどうするかは何も決めていないが、という勝手な申し出に、その若者は快く応えてくれたらしい。

 よくよく考えてみれば、とてもありがたい話だ。

 こんな形で人と会うのは、初めての経験だった。

 いきなり、あなたの人生を取材させてくれ、特に恋の話が聞きたい、などと言うのもアレだから、お酒なんかも飲みつつ、ああどうもどうも、初めましてー、という感じの会い方だった。

 彼の名は小森谷くんといった。三十代前半の若者で、感じがよくて、真面目そうな青年だ。

 彼は映画編成の仕事をしているらしい。全国にある劇場のホールで、いつからいつまでこの映画をかけて、といったことを計画する仕事だ。

「やっぱり映画が好きなんですか?」

「ええ、大好きです」

 彼のベスト映画は『ショーシャンクの空に』ということだった。僕は『燃えよドラゴン』だと言うと、ふははは、と笑われた。

 横から編集者が、わたしは『カリオストロの城』ですと小さな声で言った。

 それから最近観た映画の話をしながら、ビールを飲んだ。

 彼がケータイで撮った自撮りの写真を見せてもらうと、九割が変顔で映っているものだった。

 普通の人だった。イケメンだともてはやされることはないだろうし、特別フィジカルが強いわけでもなさそうだ。

 手足がゴムのように伸びるとか、視力が四・〇あるとか、そういう特殊なアビリティもない。

 最近変わったことがあったか、とかそういう話になった。

「んー、特にはないですけどね」

「そうですよね。変わったことなんて、なかなかないですよねー」

 普通の男子は本能寺で襲われないし、海賊王を目指したりはしないのだ。

「あー、でもあれですね、何年か前のことですけど」

 ビールのジョッキを置いた小森谷くんは、それから結構、普通ではないことを言った。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

cucciolo_rs16 続きが気になる・・・ 4ヶ月前 replyretweetfavorite

pixiewired "生き残っちゃいました──。 全ての偉人には、いかしたエピソードがあり、また波瀾万丈の人生がある。 だがそんなものは、僕らには..." https://t.co/aM7utkrUhh https://t.co/CVTksry2nk #drip_app 4ヶ月前 replyretweetfavorite

marekingu #スマートニュース 4ヶ月前 replyretweetfavorite