激動するマリファナ市場
私はこれまで、世界各地で麻薬ビジネスについて取材してきた。だからといって、麻薬を使うことをオススメしているわけではないし、ましてや自分自身で使用することもない。ただ、日本を含め世界中で麻薬が流通していることは紛れもない現実だ。
「日本に暮らしていて、一度も大麻に触れずに30歳になるヤツっているのか?」
ある売人にそんなことを言われたのが裏社会を取材してきて印象的だった。おそろしく若いうちからドラッグに魅かれる人がいる一方で、本当に存在しているのかわからないというほど全く縁のない人もいる。どこにでもあるようで、誰でも手に入れられるものではない。つまり、ドラッグを「商品」として捉えた場合、それを扱うビジネスは、ずいぶんといびつになるのではないかと思ったのだ。
犯罪やアングラの世界を取材する者として、その実態を把握しておきたいと考えた。生産者、売人、消費者……麻薬に関わるさまざまな人々に接することで、いかにしてドラッグは「商品」として流通していくのか、これまで覆い隠されていた市場の姿がおぼろげながら見えてきた。
ここ最近、世界で大きな変化が起きているのが、マリファナ市場だ。とくにアメリカでは、医療目的や嗜好品として使用する場合のマリファナ合法化が進められている。2012年、ワシントン州の住民投票で使用が合法化されたのを皮切りに、2014年1月にはコロラド州で娯楽目的のマリファナ使用が解禁されるなど、合法化の動きは全米に広がりつつある。
2016年11月8日、ドナルド・トランプが当選したアメリカ大統領選挙の投票日、マリファナの解禁を問う住民投票が多くの州で実施された。その結果、カリフォルニア州、ネバダ州など、西部の各州で軒並み合法となった。これでアメリカ国内の完全合法化は時間の問題と思われたが、大統領となったトランプは、マリファナの合法化には慎重な姿勢を見せているため、再び先行きは読めなくなった。
マリファナの葉
だが、これまでの流れが完全に断ち切られるわけではない。アメリカで進むマリファナ合法化の動きを追うことは、ドラッグビジネスで何が起きているのかを知ることにもつながるだろう。
現在、麻薬は生産された国で消費されるという「地産地消」スタイルをとっていない。むしろ、輸出入を前提としたグローバルな商品となっている。ジャマイカやメキシコ、その他の中南米諸国、アフガニスタンなど別の大陸で生産された薬物の多くは、アメリカや中国のような大国に向けて輸出されている。もちろん違法であるから密貿易である。なぜ生産国の消費者ではなく、リスクを冒してまで外国へと運ぶのか。その理由は単純で、高く買ってくれるからである。金を出す人がいるから、そこに商品を届ける。商売の基本形にすぎない。
生産、仕入れ、消費という三者の関係は、ジャマイカ、アメリカ、メキシコ3国の関係においてとくに顕著である。この3国を取り巻く状況を把握すれば、麻薬ビジネスと世界的に進むマリファナ合法化への動きが見えてくるだろう。そして、その流れに日本だけが例外的に巻き込まれないなど、あり得るはずもない。そんな厳しい現実も同時に見えてくるはずだ。