第1回】見過ごされてきた格差問題 闇を生きた子会社族の憂鬱

親会社に意思決定機関を支配されている子会社。ここに内在する禁断の格差問題に、誰も向き合おうとしてこなかった。そんな闇を生きてきた子会社族のリアルな姿を白日の下に晒す。

 “やりがいの搾取”だ──。新卒で大手損害保険会社の子会社に入社した20代男性はそう不条理を叫ぶ。

 同じグループ企業で働くも月給は親会社の約7割、賞与は半分以下。親会社から出向中の社員と机を並べてほとんど同じ仕事をしているが、出向者は親会社の給与体系に基づく高待遇を享受する。子会社の社員(プロパー)が報われることはない。

 そんなとき、親会社の人々が待遇格差の隠れみのとして持ち出すのは「仕事のやりがい」という殺し文句だ。「子会社は現場の最前線を担う重要な存在」とうそぶき、士気を保とうとする。だが、待遇が改善されることはない。

 いろいろな働き方がある中、今日では非正規労働者の格差問題に世間の目が向いている。だが、前述のような歴然とした待遇格差があり、不遇をかこちながら全く日の目を見てこなかった人々がいる。その一群こそが「子会社族」だ。

 毎月の給料だけではない。年金から退職金、福利厚生や社内教育、果ては心理的な領域に至るまで、あらゆる面で子会社は親会社の下に位置付けられる存在──。そんな実態が半ば“常識”として、日本社会ではまかり通ってきた。

 冒頭の男性の会社は、約10年前に現在の親会社に買収、子会社化された。「選択と集中」の名の下、取引額の大きい法人顧客の“お得意様”を次々に親会社に奪われていき、今や「親玉に上流の金山を献上して、下流で砂金集めをやらされているような状態」という。

 親会社からの“天下り”役員は子会社を見下し、本社側の方法論を押し付けがち。一方でお上の親会社の意向をうかがうばかり、という「ヒラメ出向者」で溢れる。

 ある大手航空会社の子会社に勤めていた20代女性は「ステップアップの無理強いがあった」と訴える。若くして「現場責任者」と呼ぶ立場を任され、これは一見、出世の早道で“名誉なこと”にも映るが、給料は一切上がらない。

 子会社幹部は親会社からの出向者で占められ「ガラスの天井」が見えている。一方で責任とそれに伴う業務負担が増えても、待遇には全く反映されない。この子会社では構造的に、出世するメリットが見いだせない。だから入社後3年で半数の人が辞めていく。

 現場の不満を尋ねれば、子会社族の多くはせきを切ったように、こうした不幸な実態を口にする。

 周囲と数年違いで就職氷河期に直面し、早慶レベルでも大企業に内定できずに、子会社行きを余儀なくされた学生も珍しくない。

 そんな一群を生み出す子会社の基本的な定義は下図の通りだ。ある会社(親会社)が議決権のある他社の株式の過半数(50%超)を保有する場合、この株を握られている方が子会社と位置付けられる。

 50%以下でも、「実質的な支配」の関係にあれば子会社となり、さらに傘下で同様の関係にあれば親会社から見て孫会社。議決権20~50%なら関連会社で、これらを総称してグループ企業と呼ぶ。

 サラリーマンなら誰もが関係し得る、子会社という存在。身近にありながら、実はその全貌をつかめる統計などはほとんどない。

 その中で比較的網羅性が高そうな経済産業省の「企業活動基本調査」によれば、従業員50人以上、資本金3000万円以上の製造業を中心とした日本企業(金融・建設業など除く)で見た場合、国内の子会社数は約5万社に上る。子会社といっても規模はさまざまだが、仮に中小企業と定義される1社当たりの従業員数300人以下(業種による)から推定すると、関係者は1000万人規模になる可能性もあり、裾野は極めて広い。

禁断の絶対格差
残酷物語の数々
合併で減給の悲哀

 そんな子会社という名の砂上の楼閣は、待遇で劣るのみならず、親会社の方針一つで、会社の器そのものが変わる可能性すらある。

 住友商事傘下のSCSKは、2011年に住商情報システムがCSKと合併してできた会社だ。住商情報システムに新卒で入ったある20代男性は、入社後間もなく合併を経験。CSK側に合わせて月給が数万円下がる憂き目に遭った。

 企業再編の俎上に載りやすい子会社は、こうした待遇改悪だけでなく、仕事の一部が突如“消滅”する恐れとも隣り合わせだ。

 千葉県在住のある30代女性は、以前勤務していた子会社で会社分割が行われ、望んでいた仕事の一部門が切り離されてしまった。

 三菱商事傘下の人事系子会社に新卒で入社して数年後。人材開発とコンサルティングの二大部門のうち、所属と別のコンサル部門が会社分割で切り離され、他の企業との共同出資会社に統合した。

 女性はもともと、社内の両部門を幅広く経験しながら、人事関連のスキルを磨きたいと思って入社した。だが、そのうち片方がある日突然、他社に吸収されてしまい、ただでさえ小さな会社で社内キャリアの芽が摘まれてしまった形だ。

 子会社という存在が、なぜ世間から置き去りにされてきたのか。作家の橘玲氏は、大手メディアに同様の問題が内在していることも理由の一つに挙がると指摘する。

 1年ほど前、ある大手新聞社の子会社の記者だった男性は、安倍首相が施政方針演説で「同一労働同一賃金の実現を目指す」と表明したとの記事を執筆していた。

 これはあくまで、非正規労働者の待遇改善を指した政府方針だったが、男性は記事を書きながらふと思った。「同一労働同一賃金って、正社員に適用して考えると、うちの会社は全く当てはまらないな」。

 基本給の格差に加え、長時間労働の多い親会社の社員には残業代による上乗せ支給も多かった。一方、男性の働く子会社は裁量労働制。残業代は基本的に付かない仕組みだ。企業年金や退職金などにも大きな差があり、生涯収入で見れば1億円の宝くじが当たっても追い付けない──。そんな、過酷な現実に直面した。

 親会社での入社組は、これまでの話を特に「関係ない」と思われるかもしれない。だが、そんな人も突然、子会社族の一員となる日が来てもおかしくないのだ。

 大手スポーツ用品メーカーに勤める20代男性は数年前、新卒採用で親会社から内定を得た。当然、その中でキャリアを積むつもりだったが、今年1月から子会社に半ば強制的に転籍させられたという。

 子会社は親会社の国内事業を分社化して数年前に設立。プロパー社員らと「グループが一枚岩で進む」ことを名目に、親会社からの出向者の多くが転籍を迫られた。

 待遇は変わらないと説明を受けたが、正社員といえども雇用面で不安は拭えない。親会社側は子会社設立前に国内事業で早期退職を実施し、半数弱の人員が削減されたことがあった。その際、会社側が目を付けた人には何度も何度も“面談”し、退職を強く迫った。

 そんな過去があるだけに、市場が頭打ちの日本に業務範囲を限定された子会社では、また人員削減が行われてもおかしくない。実際、国内事業は既に赤字となっている。

 2002年に『子会社は叫ぶ』(筑摩書房)を著したノンフィクションライターの島本慈子氏は、子会社の格差問題について「企業は労働費を下げるため、子会社をつくって(親会社より)賃金の低い労働者を増やしている。また子会社を増やすことで組織ごとの力を弱め、親会社から仕事をもらって働く子会社の人の立場を厳しいものにしている」と指摘する。

 ここまで若手プロパーの子会社族から噴出する不満に耳を傾けてきたが、子会社という器においては、親会社から“天下り”する出向者にも苦悩は尽きない。不満を持つプロパー社員と親会社との板挟みとなる存在でもあるからだ。

出向者たちの苦悩
限られる裁量
口を出したがる“親”

 大手鉄鋼系商社の60代男性は約5年前まで、子会社で社長を務めていた際、日々の業務の中で「親会社からの変なガバナンスが横行しているのでは」と感じていた。

 例えば、本社側からは事前に「子会社で賞与を何カ月分出すか」と報告を求められた。親会社ではそもそも賞与の前提となる月給が高いが、さらに、「子会社は賞与額の月数で親会社を上回らない」という不文律がグループ企業に敷かれていたという。

 プロジェクトの決裁でも子会社社長の裁量は何かと限られる。さまざまな調整を進めた揚げ句、最後に本社から抽象的な理由で案件をひっくり返されたときなどは「子会社の悲哀を感じた」という。

 他にも、バブル直後に開業した、NTTグループの会員制高級スポーツクラブに親会社から出向経験のある60代男性。入会金が100万円にも上るクラブの運営に際し、男性が難しさを感じたのは「親会社の役員がスポーツクラブの経営経験など全くないのに、いろいろと口を出したがる」ことだった。「振り回されず信念を持てばよかった」と悔やんでも後の祭り。結局、2000年ごろにクラブ運営会社は他社に譲渡されてしまった。

 “親子”同士の待遇格差は、気心知れた“夫婦”の間でも繊細な話題となり得る。産業機械などを手掛ける大企業で、親会社と子会社に夫と妻がそれぞれ勤務していた、広島県在住のある夫婦。夫は親会社に長年勤務していたが、ある年から妻のいる子会社に出向した。

 会社のルールに従い50歳を迎えて転籍し、親会社で定年を迎える場合より退職金が減ることになった。妻は「夫婦の間で、“親子”関係はデリケートな話題。夫に“子”に移って悲しい? とは聞けない……」との心境を明かす。

これまで日の目を見ることのなかった子会社族の一群。親会社の人々に抑圧されてきた、彼らの実像を追った

 そんな子会社族たちの悲哀に満ちた姿を見てきたが、今や経営面で見ても、子会社の扱いを一歩間違えれば、企業グループはとんでもないダメージを被り得る。激震に揺れる東芝が巨額減損を出したのも、火元は買収で手にした原子力の「子会社」だった。

 企業再編が国内でも活発になっている中、ある日突然、籍を置く会社が買収されないとも限らない。そういう意味では、潜在的には全てのサラリーマンが「子会社族」予備軍だ。あなたも決して、その例外ではない。

Photo:123RF

週刊ダイヤモンド

この連載について

誰も触れなかった絶対格差 子会社「族」のリアル

週刊ダイヤモンド

「現代の身分差別」。識者がそう言い切る人たちがいる。大企業の子会社で働く人たち、「子会社族」のことだ。“親”の顔色をうかがいつつも、内心では待遇の悪さに猛烈な不満も抱く。それでも、これまで非正規労働者のようにスポットライトが当たること...もっと読む

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