尾崎世界観「お金がなくて、すき家の前で立ちすくんでいた自分のことを忘れたくない」

人気ロックバンド・クリープハイプの尾崎世界観さんが『苦汁100%』を上梓しました。小説『祐介』に続き2作目となる本作では、2017年2月までの一年近くの日記が綴られています。日記を書いていると、イヤなことがあっても、ネタにできるし、取り返せる気がすると語る尾崎さん。ミュージシャンでありながら、自らの日常を言葉にしてさらけ出していく、その作家性に迫ります。

自伝的な要素をかなり含んでいるとも読める小説『祐介』で、尾崎世界観さんが突如として文学の世界に名乗り出たのは昨年のこと。

売れないバンドマン・祐介はスーパーマーケットでアルバイトをしながら、なんとか音楽を続けようともがいている。ライブを繰り返してもほとんど客は集まらず、メンバーとの関係もギクシャクし、恋愛沙汰も思い描いたようになんてまったくいかない……。

祐介
祐介

およそ1年後、尾崎さんの新刊が出た。こんどは小説ではなく、日記体の文章の集積だった。『苦汁100%』には、2016年7月から2017年2月までの日々のことが、1日も休まず綴られている。

苦汁100%
苦汁100%

リハーサルスタジオにこもり、雑誌の取材を受け、ラジオに出演し、そしてライブを繰り返す。多忙な生活のなか、たまたま行ったマッサージのうまさに唸り、空き時間にラジオの野球中継を聴きながら歩き、失くし物をして怒る。尾崎さんの迸る思いと喜怒哀楽が事細かく書き込まれていて、読む側はなんでも知った気になるが、すると途端に、

「本当に大事なことは日記には書かないし、書けない」

と肩透かしを食わされたりも。読んでいて翻弄される。夢中になってしまう。
正直なところ、有名人の日記におもしろいものなんて、なかなかない。でも、これはもちろん例外だ。

日記とはいえ、おもしろさや読み手の満足度はかなり意識していると見受けられるが。

 エンターテインメントにしなくちゃいけない! と、つい思ってしまうのは明らかにクセでしょうね。僕だって基本的にはなんの変哲もない日常を過ごしているんですけど、書くならそれで終わっちゃいけない、笑えなきゃいけない、響くようなものにしなきゃいけないとか、過剰に使命を感じてしまうんです。

なにも笑いをとるためばかりではないだろうけれど、これだけ赤裸々に自身の言動や心の動きが書かれていると、イメージが大事であろうミュージシャンとして、だいじょうぶなんだろうか……、と勝手ながら心配になってしまう。

 ミュージシャンがここまで自分のことを書くのは珍しいと言われたりもします。だからこそ僕が書く意味があるんじゃないかと思います。ライブには多くの人が来てくれますけど、ステージに立つ直前までは何をしているのか、終わったあとどうしているのかとか、そういうのを包み隠さず伝えてしまってもいいだろうと思って。

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苦汁100% (文春e-book)

尾崎世界観
文藝春秋
2017-05-24

この連載について

初回を読む
文学者の肖像

山内宏泰

文学とは、なんなのか。文学者たちは今をどうとらえ、いかに作品に結実しているのか。言葉に向き合う若き作家たちの「顔が見える」インタビューシリーズです。

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コメント

nishiaratter タクシーに向かって躊躇なく手を挙げる自分がダサいとか、シーン描写がうますぎる。繊細なんだろうな。→ 4ヶ月前 replyretweetfavorite

sgold8 ていう気持ちもわかるなぁと思いながら昔からのファンは聞いてるから大丈夫 4ヶ月前 replyretweetfavorite

manaview 尾崎世界観&植本一子&神田桂一で『ボクらの時代』に出たらいいのになあ~。尾崎さんと植本さんのエッセイ(日記)どちらにも登場する男・神田さん。 https://t.co/LElUxQ00EG 4ヶ月前 replyretweetfavorite

aporo1031 「本当に大事なことは日記には書かないし、書けない」 4ヶ月前 replyretweetfavorite