ちゃぶ台返しは突然に
「許可は出ている。だが、解体業者のほうが認めない以上、入ることはできない」
「船の墓場」を見て回った翌日。私たちは日本でいう知事にあたる人と面会をしていた。
取材前に、政府レベルでの許可を得ていたのに、現場でひっくり返されてドタキャンされたのだ。わけがわからない。だが、ここはバングラデシュである。意味不明なトラブルは想定の範囲内だった。あくまで、この時点ではだが。
なんと以降の数日間、あらゆる手段でコンタクトを試みたが、最終的な決定権を持つ「船の墓場」を運営している会社の組合の責任者につないでもらうことはできなかった。
「いったい何が起きてると思います?」
一向に進展しない取材に、苛立ち混じりに通訳兼ガイドのPさんに質問をぶつけた。
「私にもわかりません。一体どうなっているのか……」
バングラデシュ人である彼ですら困惑するほどの異常事態であることはわかった。だが、なんの進展もないままで取材を終わらせることはできない。
門前払いを食らってしまった
そもそも、許可が下りない理由はなんなのだろうか。まずはそこを解き明かす必要があるだろう。
頼みの綱のガラの悪いジャーナリストは……
打開策として、私は地元で著名なジャーナリストに接触することにした。いま、私たちの知らないところで何が起きているのか。Pさんを通じて約束をしてから、会うまでに2日もかかった。
待ち合わせ場所に4時間以上遅れて現れたのは、ずんぐりむっくりした体型の壮年の男。タヌキのぬいぐるみに空気を詰め込んだような風体だった。
有名なジャーナリストということだったが、少々ガラが悪い。タヌキ親分と呼ぶことにした。はっきり言って、言論系の活動家や総会屋のような印象を受けた。
本来なら関わるべきではないのだろうが、ほかに頼る相手もいない。私たちはタヌキ親分にいま置かれている状況を説明した。
すると、親分のタレ目のタヌキ顔が一変。キリッと鋭い目つきになって言った。
「君の求める取材を正面から頼んだところで、絶対に実現はできないだろう」
「ここまで断られてきたんだから、そう言われるだろうことは予想していました。それよりも、なぜ断られているのでしょうか」
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