神田松之丞“絶滅危惧職”講談師を生きる!

第二回 師匠松鯉の指導法

ここ数年、演芸ファンの注目を集め続けている男がいる。
神田松之丞、1983年生まれの33歳。90年代以降、東京の講談界では入門者の多くが女性であり、日本講談協会にも、もう一つの講談団体である講談協会にも、彼以降に入門して現在まで現役でいる男性講談師は二人しかいない。一時期の松之丞は「東京で唯一の二十代男性講談師」だった。


「天保水滸伝」(なかのZERO小ホール「神田松之丞独演会/松之丞ひとり~夢成金」2017年5月26日)より
撮影・青木登(新潮社写真部)

 自身の芸名を貰った日のことを松之丞は覚えている。

「あの時は、十一月下席(下旬)がうちの師匠の芝居(その真打がトリを務める興行)だったんですよ。僕は十月三十日に入門志願して、十一月二十一日に師匠が、俺の芝居に来いと呼んだんです。(新宿)末廣亭に毎日通って、その千秋楽に『名前を考えてきた。紙に書いてきたから』って。和紙にぴっと〈松之丞〉って書いて落款まで捺してある。もう後戻りはできないぞって状況だけど、そのとき全然ぴんとこなくて(笑)。(古今亭)菊之丞師匠が落語界にいたんで、〝之丞〟って俺の任じゃないな、とか思いながら、ちょっと間をおいて『ありがとうございます』みたいな感じでしたね。そのとき国分健二先生(漫談)がビール飲みながら『俺、すごい瞬間に立ち会えたんやな』て言ってたのを覚えてます。末廣の二階で小っちゃいテレビがガーガー言っている中、『おまえは今日から松之丞だ』という記憶です」

 日本講談協会に入ってから間もなく、松之丞は初高座を務めている。定席ではなく、兄弟子である神田鯉風の独演会だった。そこで読んだのが『三方ヶ原軍記』である。元亀三(一五七二)年、甲斐国の大名・武田信玄は徳川家康と激突する。その模様を勇ましく描いた内容で、修羅場と呼ばれる合戦場面の典型が含まれるところから、講談師の前座はみなこれを最初に習うのである。もちろん松之丞もそうだった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

vol.45はコミック新連載「愛と呪い」(ふみふみこ)ほか。あらゆるエンタメを自由に楽しむ電子の文芸誌、毎奇数月第3金曜に配信!

yom yom vol.45(2017年8月号)[雑誌]

最果タヒ,ふみふみこ,青柳碧人,柏井壽,神田松之丞,岡崎琢磨,須賀しのぶ,吉川トリコ,朱野帰子,蒼月海里,三川みり,千早茜,尾崎世界観,三上延,東川篤哉,中山七里,乾緑郎,早坂吝,益田ミリ,成田名璃子,吉野万理子,梶尾真治,藤井太洋,カレー沢薫,杉江松恋,新井久幸
新潮社
2017-07-21

この連載について

初回を読む
神田松之丞“絶滅危惧職”講談師を生きる!

神田松之丞 /新潮社yom yom編集部 /杉江松恋

ここ数年、演芸ファンの注目を集め続けている男がいる。 神田松之丞、1983年生まれの33歳。90年代以降、東京の講談界では入門者の多くが女性であり、日本講談協会にも、もう一つの講談団体である講談協会にも、彼以降に入門して現在まで現...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

yomyomclub 第三回「Fランク前座と異例の二人会」明朝10時公開です!→ 約1年前 replyretweetfavorite

from41tohomania  yomyomに連載された神田松之丞さんインタビューが転載されています。期間内は無料なのでぜひご覧ください。 約1年前 replyretweetfavorite

outyaku 松鯉さんの「おまえは名人になる」「お前の口調は圓生とか五代目貞丈に似てるな」。談志曰「名人芸はすべて圓生に似る。」 約1年前 replyretweetfavorite

yomyomclub 松之丞さん連載公開!|[今なら無料!]演芸界でもっとも熱い男、講談師・神田松之丞の革命的芸道論! 約1年前 replyretweetfavorite