最後にして最初のアイドル』星雲賞受賞記念インタビュウ

第4回ハヤカワSFコンテストでの特別賞受賞が発表されるや、ネット上での話題をかっさらったSF中篇『最後にして最初のアイドル』。早川書房初の電子書籍オリジナル作品として配信されたのち、『伊藤計劃トリビュート2』にも収録された本作が、このたび第48回星雲賞【日本短編部門】に輝きました。デビュー時の預言を見事実現させてしまった驚異の新人SF作家・草野原々氏にお話を伺います。

【草野原々(くさの・げんげん)】
1990年生まれ。広島県東広島市出身。のちに神奈川県横浜市へ転居。桐蔭学園高校卒、慶應義塾大学環境情報学部卒。現在北海道大学大学院理学院在学中。


—星雲賞受賞、おめでとうございます。今のお気持ちを教えてください。

草野 げんげんげんげんげんげんげんげん!(興奮したときのオノマトペ)うっわー! すっごーい! はははははははは! どうだ! まいったか! すごいだろう! すごいのだ! きききききききき! かかかかかかかかか! ……と、言うとでも思ったのか? 残念。そんな気持ちではないのだ。そもそも星雲賞受賞を聞いたのは、今この瞬間よりちょっと前なのだ! 内々に知らされていたのだ。茶番を一発かまそうかと考えたが、そんなことはできない! それをすると、読者の皆さんに嘘をつくことになってしまう! 正直は大事だ。『実践理性批判』にもそう書いてある。

 では、今の気持ちとは何か? 内観を発揮してみよう。現象的に一人称世界を紐解いていくのだ。意識の流れを捉えろ! 紅茶にマドレーヌを浸すんだ! ぐぐぐぐぐぐぐぐ!(意識の流れを捉えている) わかったぞ! 今の気持ちが。次のようなものだ。このインタビューの文面は何にするべきかという思考が流れており、また、「このインタビューの文面は何にするべきかという思考が流れている」ということを文面に書こうとする気持ちが流れていく。さらに、『「このインタビューの文面は何にするべきかという思考が流れている」ということを文面に書こうとする気持ちが流れていく』ということを文面にしようとする気持ちも……。この文章は無限回繰り返せると思うが、無限回繰り返したものは没になるであろうという気持ちがすぐ流れる。

 ダメだ! ダメダメだ! こんなものはインタビューにならない。もっと真面目にやらなければ! 「今の気持ち」という質問内容を真に受ける必要はないんだ。インタビュアーが言っている「今」とは、この文章を書いている現在ではなく、星雲賞受賞を知らされた過去のことであり、その瞬間に生じた特有の感覚を聞いているのだ。過去の気持ちを思い出せばいいんだよ! 楽勝じゃないか!


カント『実践理性批判』(岩波文庫)

 よーし! 思い出したぞ。こんな気持ちだ。無数の宇宙があるとしよう。インフレーション宇宙論によるマルチバースか、もしくは量子論による多世界だ。無数の草野原々がいる。それらの宇宙は、生まれてから原子一つ違うことのない双子(無数子)宇宙であったが、ある日、大きな変化を起こす。草野原々が星雲賞を受賞した宇宙と受賞していない宇宙に分岐するのだ。わたしは、草野原々が星雲賞を受賞していない宇宙とは永遠に切り離された。今後、この宇宙には「草野原々が星雲賞を受賞した」という刻印が、消滅することなくずっと続いていくのだ。別にそのような分岐は珍しくはない、それこそ、毎日起こっていることなのであるが、星雲賞という象徴があったため、宇宙の分岐という事象をしみじみと骨身に至るまで感じたのだ。宇宙が音を立てて分かれ、大枝にちょこりと乗る毛虫のように、わたしが宇宙に乗っているのだ。

 この事象が、自分が引き起こしたものではないということも、宇宙分岐の感覚の後押しになったのかもしれない。わたしは行動するごとに、決断するごとに、それをしないわたしとの双子状態を消し去り、永遠の別れを生み出している。双子に対して、「わたしではない」と宣告している。それは、宇宙分岐のインターフェースを見ることができる状態だ。意識という形のインターフェースが存在する。

 一方、星雲賞受賞の場合はインターフェースが他者の手にあった。投票してくれたSFファンの皆さんの手のなかに。SFファンの皆さんは投票ボタンを押し、メキメキと宇宙を分割した。同じレールの上を走っていた無数の宇宙の上で信号が点滅し、ポイントが切り替わった。誕生直後からずっと一緒だったはずの宇宙の絆にひびが入った。そうして、草野原々が星雲賞を受賞した宇宙にわたしはいる、あなたもいるのだ。こうした突然の分岐は宇宙のポイント切り替えをより如実にあらわす。

 どうだ、この気持ちは! 参ったか! 星雲賞はわたしの脳内にこのような気持ちを挿入したのだ。星雲賞さんはやはりすごい。こんな気持ちを与えてくれるなんて、星雲賞さんは素晴らしい! 一流の気持ち職人である星雲賞さんに拍手をしよう、パチパチパチパチ! しかしながら、星雲賞自身は気持ちを持っていないので、悲しいことでもある。

 そして星雲賞さんは、わたしの脳内に気持ちを挿入する以外のこともできる。一発屋を二発屋に変えるという特技を持っているのだ。わたしは、潜在的な一発屋であったが、一発は二発と化すことになった。つまり、ついに新作が登場するのだ! 『エヴォリューションがーるず』という名の中篇であり、電子書籍として近々リリースされる!!


「エヴォリューションがーるず」(7月31日配信予定)

『最後にして最初のアイドル』では、SFでこれまであまり取り扱われなかった「アイドル」という概念を中心に展開する作品であったが、『エヴォリューションがーるず』では「ソシャゲ(ソーシャルゲーム)」という概念が中心的なガジェットとなる。主人公は笹島洋子という名の労働者であるが、彼女は「エヴォリューションがーるず」というソシャゲにはまりこんで生活が破綻してしまう。「エヴォがる」は着せ替えゲームとリズムゲームを組み合わせたようなシステムのゲームだ。風呂にも入らずソシャゲを続ける洋子は、トラックにひかれて死んでしまう。だが、なんと、見知らぬ世界で目覚めるのだ。その世界は、ガチャから身体パーツを手に入れて着せ替えするというソシャゲのような世界であったのだ!

 この作品では、『最後にして最初のアイドル』に負けないくらいのワイドスクリーンバロックを展開している。アイデアはてんこ盛りだ! 宇宙論や進化論、生物形態学にバイオミメティクス、時間の哲学に自由意志論、神話に異世界系、マルクス主義にボードリヤールなど、様々な領域を横断的に参考にしている。また、百合シーンは『~アイドル』よりも増えているので、期待して欲しい。流行に乗るのが得意な人間であるので、今年未曾有の大ブームとなったSFアニメの影響も多く見られる。

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草野原々、大いに語る

草野原々

1990年生まれ。2016年、『最後にして最初のアイドル』で第4回ハヤカワSFコンテスト《特別賞》を受賞し作家デビューし、同作の電子書籍版が大きな話題を呼んでいる新星・草野原々氏のコーナーです。

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コメント

yumeka 見ている:/* 『 最後にして最初のアイドル』星雲賞受賞記念インタビュウ */ https://t.co/Juj38DmiHj 27日前 replyretweetfavorite

Hayakawashobo こちらもあわせてどうぞ! 27日前 replyretweetfavorite

hirokyun 先生滾り過ぎです!(笑) 28日前 replyretweetfavorite

izm インタビュウというより独演会の趣があり凄い 約1ヶ月前 replyretweetfavorite