【序章】青年ひろとゾンビ先生の出会いー後編
それからどれくらい時が経っただろう?
ひろが目を覚ますと、そこは変わらずみすぼらしい小屋の中であった。足元ではたき火が燃え盛り、静寂の中に木の音を弾かせている。
「目を覚ましたか、ひろよ」
声に目をやると、自称ゾンビ先生が心配そうにひろをのぞき込んでいた。
「驚かせて悪かったな。まあ無理もない。ゾンビを見るのは初めてじゃろうからな」
「イタタタ……。な、なにを言ってるのさ。ゾンビなんているわけないだろ! さっき僕が見たのは……、そうだ、夢だ! あれは夢に違いない。そしておじさんは森に住む変質者に違いない」
「なんじゃおまえ~、まだわからんのか? ではこれならどうじゃ」
言うとゾンビ先生は、たき火の中から尖った枝を1本取り出した。先端にまだ小さく炎が残るその枝を、ゾンビ先生はおもむろに左の眼球に突き刺す。
「な? 人間だったらこんなことできないじゃろ? わしはゾンビだから、眼球が鋭利な枝で貫かれても全然平気なんじゃよ」
老人は眼窩の奥深くまで枝をねじ込むと、てこの原理を使ってそのまま眼球をグリンと抜き出して見せた。枝から伝わる高熱でドロドロと溶ける眼球を、眼窩の黒い空洞が見つめている。
ひろは再び気を失った。
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