東京の夫婦

久しぶりに裸足の子供を見た。[第二回]

「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第二回は「子供」という存在について。イラストは近藤ようこさんです。

 僕たち夫婦の住む町には、やたらと小さな子供連れのお母さんがうろうろしている。もちろん、お父さんも同じ数だけいるのだろうけど、僕が町を出歩くのは昼間が多いし、お父さんは働きに出ているので存在が見えないわけだが、それにしても、昼飯を食いに行くと、たいがいの店でやたらとママ友たちが赤ん坊を連れてワイワイと食事をしていて、うるさくて気が萎える。なんてことを書くと、あまり人に好かれないが、正直な気持ちだ。

 僕の中には他人の赤ん坊に対して「微笑ましく思う」という回路がまる一つないのだ。思いたいという気持ちは本当にあるのだが、ないものはどこをひねってもない。子供をスマホやパソコンの待ち受けにしている人を見るたび、別に嫌な気持ちにはならないが「ああ、あっち側の人ね」と思ってしまう。ちなみに僕のスマホの待ち受けは与沢翼の顔写真を半分にトリミングしたものだ。「秒速で億稼いで、秒速で破産した男」の、「億稼ぐ」方にだけあやかっているのだ。まあ、どうでもいい話だ。

 子供が多いので、当然子供服屋もやたらとある。妻のM子は「子供服はもうかるんですよ」と言う。どんどん成長するから買い替えが多いと。なるほど、しかし、こう、子供用品店が街にあふれていると、少子化問題なんて嘘のようだ。僕が、子供を作る気がない分、みなさんには頑張ってほしい。

 妻には早い段階でその話は納得してもらった。妻は「夫が欲しがらない子供は産んでもかわいそうなので産まない」と言ってくれた。妻の前に付き合っていた人とは、「私は絶対欲しい!」と言うので、別れることになった。僕には生まれた子供との未来に対していいビジョンがまったく持てないのだ。グレたらどうしよう。殺人鬼になったらどうしよう。病気や自殺で死んだらどうしよう。大人になって多額の借金を申し込まれて老後のたくわえが危うくなったらどうしよう(僕の兄がそういう子供だった)。また原発が爆発したらどうしよう。ネガティヴなことばかり考えて、どんどん気持ちが沈む。

 この間、久しぶりに裸足の子供を見た。


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松尾スズキが綴る、東京の夫婦の軌跡

東京の夫婦

松尾スズキ
マガジンハウス
2017-08-10

この連載について

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松尾スズキ

東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む

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コメント

yomoyomo "ちなみに僕のスマホの待ち受けは与沢翼の顔写真を半分にトリミングしたものだ。「秒速で億稼いで、秒速で破産した男」の、「億稼ぐ」方にだけあやかっているのだ。まあ、どうでもいい話だ。" https://t.co/LFKBq1vk4n 約3年前 replyretweetfavorite

maiko10126 じわじわ好きだ、松尾スズキの書くものって。 約3年前 replyretweetfavorite

ncbgs_f あたしも赤ちゃんを可愛いと思えない。/ 約3年前 replyretweetfavorite