夫が、クーラーが効きすぎるリビングのソファーに寝転び、テレビを観ている。いつもの、夏の休日の光景だ。月曜日から金曜日まで、朝から晩まで働いているのだ。休日ぐらいゴロゴロしたいだろう。寛容な妻は、そう思う。
だが、かなりの頻度で出てくるこの一言。
「アイス食べたくない?」
これを言われる度に心からイラッとくる。そう言われるとわかっているのだったら、「買っておけばいいのに」と思われるかもしれない。だけど、仕事帰りに駅前のスーパーで買ったとしても、家に着くまでに溶けてしまう。スーパーより近い場所にコンビニはあるけれど、手ぶらで通りかかることなどまずない。いつも、野菜や牛乳やなど、両手いっぱいのビニール袋を抱えて帰ってくるので、アイスを買う余裕などない。
それなのに、「アイス食べたくない?」である。大体、「食べたくない?」という疑問形はなんだと思う。「アイス食べたい」だと、イコール「買ってきて」になる。「食べたくない?」も同義なのだけれど、「そうだね」と妻の同意を得られたら、「じゃあ、ついでに」と思えるのだろう。
妻は仕方がなく、なにも言わずに、コンビニに行く。道すがら、アイスは1つだけしか買わず、自分は食べないようにしよう。それがせめてもの抵抗だ、などと思っているのだが、暑さにやられ、つい、2つ買ってしまう。
内心、ふて腐れながら家に戻ると、寝そべっている夫はテレビを観ながら、「ありがとう!」と、そしてたまに、「え、これか……」と買ってきた種類にがっかりとした顔を見せたりする。夫は、チョコレートの棒アイスが好きなのだ。そんなことはわかっている。売り切れだから、違うアイスを買ってきたのだ。腹は立つが、30分もすれば忘れるような些細なことだ。妻は、これくらいのイライラは封じ込めることができる人間だ。
「男女間の温度差」
そう検索すると、案の定「気持ちの温度差」について書かれたサイトが数多くヒットする。「相手は自分をどう思っているのだろう」そんな恋愛関係から、もうちょっと先に進んでひとつ屋根の下で暮らす夫婦や、同棲している恋人同士が悩まされる温度差……。それは「体感温度」だったりする。一般的に男は女よりも体感温度が高く、女は男よりも体感温度が低いと言われている。同じ気温でも、感じ方は違うのだ。この夫婦も、例外ではない。
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