あの日、変わってしまった世界に光は届くのか?映画『彼女の人生は間違いじゃない』廣木監督インタビュー2

2011年3月11日、14時46分。昨今よく見るノベルゲームのように言うなら、その日その時から「今までとは違う世界を生きることになった」という人は多いのではないでしょうか。『ヴァイブレータ』『さよなら歌舞伎町』といった、男女の情愛を描く作品を発表している廣木隆一監督は、自身も福島県の郡山市で育ち、震災後すぐに東北の変わり果てた姿を目にしました。そこで「何か、自分でもわからない感情」に駆られた廣木監督は、その感情をひたすら文章に綴ります。そこから生まれたのが、小説『彼女の人生は間違いじゃない』と、7月15日から公開になる同名の映画。

震災後に発生した津波と原発事故とで、大きく運命が変わってしまった福島県の人たち。「震災が起こってしまったフクシマ」を生きる彼ら・彼女らの姿を通し、廣木監督が描きたかったものとは――。

前編はこちらから

最初は『ロング・シーズン』にしようと思ってた

— タイトル『彼女の人生は間違いじゃない』。優しい目線を感じるいいタイトルだと、個人的には思ったんですが、この「彼女」は主人公のみゆきを指しているのですか?

廣木 実はこのタイトル、『ロング・シーズン』ってのと、『彼女の人生は間違いじゃない』ってタイトルとで悩んでたんです。で、最初は『ロング・シーズン』にしようと思ってたんですよ、フィッシュマンズが好きなんで。そしたら、みんなに「えーっ!?」って言われて、却下された(笑)。

— そうなんですか!? 意味合いとしては、やっぱり「長い季節」……原発の除染まで長い季節がかかるとか、そういった意味合いで?

廣木 そうです、もっと原発寄りなタイトルになるイメージでした。「彼女」は、みゆきというか……それぞれの人生、という感じで捉えてもらえれば。みゆき限定ではなく、いろいろな人生であると捉えてもらえればいいかな、って気はしています。

自分が言いたかったこととは違うので、具体的な情報は外しました

— 映画本編の話、少しネタバレに抵触するかもしれない話になるのですが、みゆきの父親の修が劇中のクライマックスで取る行動が、小説と映画とで違っているのはなぜでしょうか?

廣木 そのへんの話も、時間の経過によって、いろいろな情報が出てきて、その情報が全部変わってしまうことに気付いてから、そこらへんの話を全て省いたんです。後から観た人が「その時代は、原発事故の後処理についてそういう風に考えてたのか」って、具体的な資料としてこの映画を見てしまう。自分が言いたかったのはそういうことではなかったので、そういった具体的な情報は外した方がいいなという気がしたので、そういう風に変えました。

だって本当にもう、原発の後処理問題については、毎日のように風向きとか、論調とかが変わるじゃないですか。どこに行くのかというのも、現時点でまだ見えていないし。「チェルノブイリと一緒だから、突貫工事みたいなことをして、何十年もかけて上に土をのっけていけばいい」「いやそうじゃない、そんなことをしても風でまたすぐに飛ばされてくるだろう」みたいな、その繰り返しだったりするじゃないですか。そういう紆余曲折みたいなものは、これからまさに変わっていくものだと思うから、なるべく外したほうがいいなと。

— 父親の行動が変わることによって、ラストの印象がだいぶ変わりましたね。小説では、「ああ、父親もこれで前向きになれたんだ」と希望が持てるラストになったところが、映画だと完全に前を向いたわけではなく、「とりあえず後ろを向くことをやめただけ」になったというか……。

廣木 そうですね。それはでも、映画の脚本を作るために、何度か被災地に行ったんですよ。そうすると、「そんなにすぐに前向きになれるか? なれねえだろ」って、どんどん取材していくと余計に思っちゃったんですよ。もうちょっと立ち止まってもいいんじゃない? って、思ったんです。「立ち止まる時間が長いじゃん」って言われたら、「そうね」って言うしかない。それは人それぞれだし、って思います。小説書いてる時は、勢いで書いてたから。「明日に向かっていけ!」みたいな。現地に行って、実際に風景を見てると、そんなことはどんどん言えなくなってきますね。

— 実際に現地を見てしまうと、「前を向け、って言われても無理!」という人はたくさんいるな、と思われたんですね。

廣木 そういう気持ちで、さっき話に出てきた漁船のお父さんの話とかを聞くと、また違う印象があるんですよ。「いやー、やっぱりキッツイなあ」って。また別な感情が生まれるんですけど、それはすぐには……映画にできないんで、っていうのはありましたね。

— これから映画を観ようと思っている方に向けて、映画の見所であったりとか、「こういったところを観てほしい」といった思いがあれば、お聞かせください。

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