『彼女の人生は間違いじゃない』あらすじ:
週末になると高速バスで渋谷に向かい円山町でデリヘルのアルバイトをする、市役所勤務の主人公みゆき(瀧内公美)。週末が終わって彼女が戻る先は、父(光石研)と二人で暮らす福島の仮設住宅だ。渋谷と福島、ふたつの都市を行き来する日々に彼女が求めたものとは——?
自分でもわからない感情を、文章にしておこうと思ったんです
—— まず、この小説と映画が生まれたきっかけを教えてください。
廣木隆一監督(以下、廣木) 『RIVER』という、秋葉原通り魔事件をモチーフにした映画を撮影していた時に、あの東日本大震災があったんです。その時に、映画の中に「今の東北の姿を入れたい」と思って、被災地に行って撮影したんです。でも、映画にはできなくて。
僕、結構いろんな事をメモするタイプなんですよ。映画のヒントとか、その時の自分の気持ちとか。被災地に行った時の気持ちが、なんというか「自分でもわからない感情」だったので、その時は『RIVER』の中に入れるのはやめて、とりあえず自分の中で文章にしておこうと思ったんです。それで、文章にしていったらなんとなく、「小説にしたいな」と思い始めてきて。
—— メモ書きを重ねていったら、小説になりそうだな、と思ったんでしょうか?
廣木 「これは小説になるな」という感じではなくて、何か整理をつけようと、吐き出そうと思ったんです。吐き出すものとして映画じゃなく、小説になったっていうことですね。
—— その時点で、「映画にしよう」という思いはありましたか?
廣木 自分で撮るつもりは、最初はあんまりなかったんです。「誰か、手ぇ挙げてくんないかな」って思ってました(笑)。書いたことで、今度は客観的になっちゃうんでね。
—— それで、とりあえず書きあがった小説を雑誌の『文藝』に掲載した、と。(※小説の初出は、雑誌『文藝』の2015年夏号)
廣木 某テレビ局の人から、テレビでやりませんか? と言われたのはありますけど。ただ、作中の「主人公がデリヘルをやってる」という部分はやれないと言われて、それだとちょっと意味がないから無理だってことで、お断りしたことはあります。
実際に感じたことを書いた方がいいな、と思いました
—— この小説を執筆している時や、映画にした時に、何か書籍などを参考にはされましたか? 特に、作中でも触れられている原発関係の話などは難解な話も多く、実際関連書籍も硬軟取り混ぜ、いろいろと出版されていたかと思うのですが……。
廣木 原発関係の書籍は確かに多いですよね。スリーマイル島の事故のこととか。でも今回は、『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』をチラッと読んだぐらいで、例えば福島関係の本とかは読みませんでした。
—— 普段から、映画に関する取材は書籍をあたるというより、実際に話を聞くことをメインにされてたりするんですか?
廣木 いや、そんなことはないんですけど(笑)。……今回の福島の事故に関しては、本当に日々情報が出て、どんどん話が変わっていったじゃないですか。どれが「本当」か、という情報も日々変わっていったし。それに関して、本に書かれていることを信用してしまってもしょうがないな、と思ったんです。唯一、小説の中に出てくる、「菜の花で除染が出来る」うんぬんについては多少調べました。書く時に調べて、本にするときにもう一回、出版社の人がちゃんと調べてくれて。でも、調べたといってもそれぐらいですね。
—— 基本的には、福島に行って実際に感じたことを大切にしたいと?
廣木 実際にそれを体験した人、今それを体験している人から聞いた情報や、福島に自分が行って、実際に感じたことを書いたほうがいいな、っていう気がしたので、本で調べなきゃいけないような難しい情報は、映画ではなるべく省きました。
福島に行って地元の人たちと話したりする機会があったんですよ。その時に「(東京に出て)デリヘルとかやってる子とか、いると思いますか?」って聞いたりすると、「いるかもしれないですね」っていう言い方をするんです(笑)。実際には会ってないんですけど、そういう話を聞いたり、映画にも入れた、地震で壊れてしまったお墓をどうするかとかいったことについての話を何回も聞いたんです。そういう話を実際に聞いたっていうのが、一番大きいですね。
それと、今回この映画で美術を担当しているのが、福島の人なんですよ。その人の同級生に、いわき在住の人がいっぱい居て。今回の映画をたくさん手伝ってくれたんですけど、その人たちの話がすごく……リアリティあるんです。そっちの話の方がやっぱり面白いというか、真実だなあ、っていう。実際に聞いたのと、一度活字にまとめられたのでは、書いたひとの視点が入るから、全然違いますね。
ただ聞くだけで、何も言えなくなってしまう
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