評価や感想を欲しがるかっぴー、聞くのが怖い燃え殻
—— お2人は、プライベートでもよく飲みに行くことがあるとか?
燃え殻 僕たちは、cakesで同時期に連載を始めたいわば同期なので、お互いの存在をすごく意識してましたね。どうせ今週もおもしろいんだろうなあ……おもしろくなくていいのにって(笑)。
かっぴー でも、幸いというかなんというか、更新曜日は離れてたから、同時にランキングを競うことはなかった気がする。
燃え殻 僕の『ボクたちはみんな大人になれなかった』が火曜更新で、かっぴーくんの『左ききのエレン』が木曜更新 。もしこれで更新が同じ曜日だったら、仲良く飲みに行くのは10年後になってたと思う(笑)。
—— やっぱり更新曜日が同じ人との間で、ランキングの順位は意識するものなんですか?
燃え殻 めっちゃ気になってましたよ。特に、僕にとっては初めての連載だったから、ランキングだけがモノサシだったんです。連載途中であまりにも評価が怖くなって、cakesの担当編集の中島さんに「これで終わりにしたい」って言ったこともあります。すごく行き詰まったときは、佐村河内さんの気持ちわかるなって思いましたから。
かっぴー 昨日、「佐村河内について考えてる」っていう謎のDMがきましたね(笑)。
燃え殻 自分の小説を誰かがすごく上手に乗りこなしてくれるなら、その人にまかせたいって気持ちになってくるんですよ。だから今、かっぴーさんが『アントレース』で、ネームだけ公開して作画を違う人にやってもらった気持ちは、すごくわかるんです。分業したいなって。
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かっぴー もう、一人で戦いたくないんですよね。僕たち基本、雨の中に野ざらしだから。
燃え殻 連載のラスト2回くらいの頃に、糸井重里さんから「来週まで待てないよ。がんばってね」みたいなメールをいただいたんです。それはすごくありがたかったんですけど、すべてをネガティブに受け取る人間なんで、めちゃくちゃプレッシャーになりましたね。終わってから言ってよって(笑)。
かっぴー 僕はそこが燃え殻さんとは性格が違うところですね。逆にそういう評価がないと僕、本当にすねちゃうんですよ。
燃え殻 僕はどこかで、小説を書いたりするのって寒いと思ってて、誰も見てないと思ってないと恥ずかしくて書けないんです。更新日の火曜日は、いつも朝3時とか4時に起きて、まだ眠い深夜の異様なテンションでバーッと一気に書き上げてました。そうすると、恥ずかしいって気持ちが起きる前に書けるんで。僕のそのルーティンを知ってるから、担当編集の中島さんは俺が朝3時に原稿を送っても、その時間にスタンバイしていて返してくれるんですよ。それはマジでありがたかったですね。
—— 表現することへの気恥ずかしさはずっとあったんですか?
燃え殻 僕はふだん、テレビの美術制作をしているのですが、それって演者さんとは冷静に距離を置いて、何かを足していく仕事なんですよね。だから、自分が書くものからも距離を置いてしまって、「お前それ、過剰なんじゃない?」とか、「すぐそうやって調子乗っちゃって」みたいな気持ちが、どうしても払拭できないんです。原稿が掲載されるとめっちゃ落ち込むし、今でも恥ずかしいからあんまり見られない。
かっぴー 僕は真逆ですね。自分の連載を読んでない後輩とかがいると、本気で怒っちゃうんですよ。「読めよ~」とかふざけた感じじゃなくて、「うん、わかったから、なんで読んでないかだけ教えて?」みたいに。
燃え殻 マジで!? すげえな! 読んでもらったら、感想も聞くの?
かっぴー 聞きます、聞きます。
燃え殻 怖くない?
かっぴー おもしろくないわけないと思ってるから。見てくれればおもしろいのにって。
燃え殻 自分はまったく躁転できなくて。編集さんに「こう直したらどうですか?」と言われても、おこがましいなと思って自分から意見を言いづらい。「これはおもしろいはず」と内心で思っていても、そこまで強気になれないんです。
かっぴー 2人で飲んでるときは、けっこう同じテンションなのに(笑)。
燃え殻 そう、お酒入ってるときとか、午前3時くらいは強気になれるんですよ。
褒められたことは忘れるけど、批判はずっと引きずる
—— 小説を書く自分から距離を置いて、恥ずかしく感じてしまうのはなぜなんでしょう?
燃え殻 表現してる人って、どこかしら過剰か、もしくは欠損してるところがあって、すごく尊敬している一方で、正直ちょっとププッて笑っちゃう部分もあるんですよね。だから、自分がものを書く世界に飛び込んだときにも、尊敬していた表現者たちの片隅に自分がちょっとでも入れたかもしれない喜びと、「何やってんだ俺」と自分で自分を笑っちゃう恥じらいとが、本当にまだらに襲ってくるんです。誰かが褒めてくれたときも、「でも、誰かは違うよって思ってるだろうな」と、そっちが気になっちゃったり。
かっぴー わかる! あの気持ち、なんなんすかね。
燃え殻 褒められたことってけっこう忘れちゃうんですけど、逆に「ここは違うだろ」とか「こんなのくだらない」とか言われたことはすごく覚えていて。cakesでの連載が終わってからけっこう経つのに、いまだに風呂場とか夢の中でワッてなるんですよ。
あと、毎週好意的な感想を寄せてくれる人が、「今週はよくなかった」とか言ってくることがあって、毎週読んでくれている人だからこその、「もう言っていい権利が俺にはあるだろ?」というスタンスにダメージを受けたり。
かっぴー そう。常連客ほど「あれ、今日は味違くね?」みたいなことを店主に言うんですよ(笑)。
燃え殻 僕はそういう経験が初めてだったんで、途中から常連の人たちは出したら喜んでくれるものだと甘えちゃっていたんです。そうしたら、僕の知らない間に常連と常連が「なんか今週違うね」とか話し合ったりしていて(笑)。
かっぴー そうそうそうそう! わかる、わかる!
燃え殻 もちろん見ちゃうし、すごい褒めてくれる人がいても、そっちの会話のほうが気になっちゃう。
—— かっぴーさんは、批判などのネガティブな評価を気にしますか?
かっぴー ちょっとでも批判されてそうな投稿は見ないようにしてます。小石であってもあらかじめ取り除いておく(笑)。自信がなかったり、心が弱ってるときほど見ちゃうんですよね。見ないでおける時は、逆に自信があるときなんですよ。
燃え殻 よくわからない人のしょうもない感想でも、すっげえちゃんと傷付きますからね。
かっぴー 誰が言ってるとか、関係ないですよね。
燃え殻 関係ないです。わざわざアカウントを作ってディスってくる人がいて、その熱量にはこっちが反省しちゃいました。
かっぴー それはもう熱心なファンですよ。
燃え殻 でも、自分の書いたものってこれまで知り合いにも見せたことがなかったから、その反応は全部見たくなっちゃって。見て、ちゃんと傷付かないとかえってハラハラするんです。逆に、ものすごく悪いほうに想像力が働いちゃう。トンカツ食べてるときも、ブタが死ぬ場面とかすぐ思い浮かぶし。
かっぴー なんでブタ側を想像しちゃうんですか!
燃え殻 想像力が豊かだから(笑)。「ああ、これぐらいしか言われてなかった。想定内だ」ってホッとするときありますよ。
かっぴー ぼくは、アマゾンで低評価のレビューを付けた人が、他の本をどう評価してるか見て、「あ、この人は毒舌だから、みんな低い」って安心したり(笑)。新規アカウントでぼくの本だけを低評価レビューしてる人なんて、もう数に数えてない。
燃え殻 俺は、「会ったら奢るから、和解したい」って思っちゃうかもなあ。
構成:福田フクスケ
次回「自分を俯瞰から冷笑してくる“客観カメラ”との戦い」は7月27日(木)更新予定