​《ローダンNEO》刊行までの道

ドイツ生まれ、世界最長のSFシリーズ《宇宙英雄ローダン》。日本では500巻以上が刊行されています。その刊行50周年企画として、ドイツで2011年にスタートしたリブート・シリーズ《ローダンNEO》がいよいよこの夏刊行されます! 《ローダンNEO》とは一体どんなもので、どういうふうに生まれたのか? それを解説する井口氏のエッセイを、SFマガジン2017年8月号より再録します。

《ローダンNEO》新シリーズ8カ月連続刊行!
第一巻『スターダスト』7月20日(木)発売
イラスト/toi8 解説/嶋田洋一

〈ローダンNEO〉第1巻『スターダスト』冒頭試し読みvol.1
〈ローダンNEO〉第1巻『スターダスト』冒頭試し読みvol.2



 1961年、オーバーバイエルン州イルシェンベルク。ドイツSF界のベテラン作家クラーク・ダールトンとK・H・シェールの座るテーブルの上にはウィスキー瓶があった。ダールトンは「まず一杯」と飲んで続けた。「それで、どんなアイデアなんですか」この年、冷戦下の米ソ宇宙開発競争最中のアメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディは、1960年代中に人間を月に着陸させるアポロ計画を発表していた。後に“シリーズの父”と呼ばれることになるシェールのアイデアとは、「もしアメリカ合衆国の宇宙飛行士が月着陸した時にそこに異星人がいたら、人類の歴史はどうなる?」──こうして1961年9月8日、《宇宙英雄ローダン》の第一巻『スターダスト計画』 Unternehmen Stardust が発売された。


《宇宙英雄ローダン》第一巻。
《ローダン》シリーズは、ドイツでは駅のスタンドなどで販売されている

『舞台は実際の月面着と予想した十年後の1971年6月19日、人類初の月面有人宇宙船《スターダスト》に乗り込んだアメリカ合衆国宇宙軍ペリー・ローダン少佐は、月に不時着していたアルコン人のトーラとクレストに出会う。アルコンの超技術により三大列強の攻撃を防いだローダンは《第三勢力》を築き、地球統一の第一歩を踏み出した』

 ローダンは毎週金曜日にキオスクや新聞販売店で販売された。初版は3万5千部。次第に発行部数は膨れ上がり30万部に。当初は30~50巻続けば大成功と見込んでいたが、今でも毎週8万部が売れ続ける、世界で最も長く続くSFシリーズとなったのである。

 発売から半世紀、10代で読み始めた読者も60代である。読者層の老化は確実に進んでいたので、クラウス・N・フリック編集長は、どうしたら新しい読者を獲得できるかを考えていた。ちょうどそのころ、マーベルコミックのリブート映画がヒットするのを見て、「これだ!」と叫んだ、らしい。彼はさっそくHP上で「50周年企画《秘密プロジェクトX》進行中」とぶち上げ、ネットのSF掲示板は大騒ぎになった。「スピンオフなら失望だ」「今度は火星着陸か」「リブートならスター・トレックのようにやってほしい」「2099巻の究極のローダンを目指すのか」といった声がネット上を飛び交ったのである。

 プロジェクトの発表から半年経ったころ、ローダン担当の女性編集者エルケ・ローヴェルは、「秘密プロジェクトXとは新しい読者を獲得するための《ペリー・ローダンNEO》(以下、NEO)という再発進したシリーズなのです。正篇では発売年から十年後の未来からスタートしたように、NEOは舞台を二〇三六年の〝新しい未来〟に置き換えたものになります。もちろんあの運命的な出会いがあります。今となっては古くなりすぎた内容は現代風に作り変えられて、新しいエピソードが追加されるでしょう。発行ペースも週刊から隔週になって、160頁のポケット版になる予定です」と明かしたのである。

 ローダン作家のマーク・A・ヘレンは「正篇と同じ作家が書いても、二つのシリーズは独立したものなんですよ。〝混ざらず・重ならず・似かよらず〟が原則ですからね」と補足した。

 その直前に『イエスのビデオ』で知られる作家のアンドレアス・エシュバッハが掲示板に「第一巻を読んだ。すごいぞ!」と書き込んだ。

《ローダン》初出版からほぼ五十年後にあたる2011年9月30日、NEOの第一巻 Sternenstaub が発売された。この意味は日本語で星屑、つまりスターダストのことだ。同じ日に、シリーズ五十周年を記念して、マンハイムで第五回ローダン世界大会が開催された。三千人のファンが見守る中、大画面にNEOの表紙が八冊同時に映し出され、華々しく発表された。続いてドイツ人の少女漫画家(!)のマリエ・サン(マリエさん、と掛ける)が登壇、何をするかと思えばイラストを描き始めた。その様子が大スクリーンに投影され、大喝采。翌日、彼女の描いたイラスト付特別版NEOが参加者全員に無償配布された。すぐに会場のあちこちで夢中に読み始めるファンたちの姿があった。みな、NEOを待っていたのだ。夕方には「編集長が語る秘密プロジェクトX」という暴露企画もあった。

 以下、同時に発表された八冊である。

 第一巻「スターダスト」 Sternenstaub フランク・ボルシュ
 第二巻「テラニア」 Utopie Terrania クリスチャン・モンティロン
 第三巻「テレポーター」 Der Teleporter レオ・ルーカス
 第四巻「ヴィジョン」 Ellerts Visionen ヴィム・ファンデマーン
 第五巻「ミュータント」 Schule der Mutanten ミハエル・マルクス・ターナー
 第六巻「ツインズ」 Die dunklen Zwillinge フランク・ボルシュ
 第七巻「エスケイプ」 Flucht aus Terrania アルント・エルマー
 第八巻「テラナーズ」 Die Terraner フーバート・ヘンゼル
(編集部注・タイトルはすべてハヤカワ文庫SFの仮題)


《ローダンNEO》第一巻『スターダスト』原書

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この連載について

ローダンNEO》、いよいよ起動!

井口忠利

世界最長のSFシリーズ《宇宙英雄ローダン》をご存知でしょうか。1961年の第一巻刊行以来、全世界で累計発行部数10億部を超える、凄まじいシリーズです。日本では500巻以上を数えたこのシリーズの50周年企画として、ドイツで2011年にス...もっと読む

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コメント

HEPGoGoGo 「シリーズの父と呼ばれるシェールのアイデアとは「もしアメリカ合衆国の宇宙飛行士が月着陸した時にそこに異星人がいたら、人類の歴史はどうなる?」─こうして1961年9月8日《宇宙英雄ローダン》の第一巻『スターダスト計画』が発売された」 https://t.co/XcFQ2HPL72 3ヶ月前 replyretweetfavorite

pamyupamyu64 ペリー・ローダンは中三の時に猛烈にハマって半年で50数巻まで読んだんだけど、受験で一時中断したら冷めてしまってそれ以来1冊も読んでいない。 3ヶ月前 replyretweetfavorite

Hayakawashobo ★刊行まであと2日★​ 3ヶ月前 replyretweetfavorite

takadanobuhiko 今ふたたびのペリーローダンか。 3ヶ月前 replyretweetfavorite