疑心暗鬼

潮目

ター坊が福岡吉本から失踪して2年。
僕たちは再会することになった。
ター坊は、カンニングの竹山として。
僕らは、鶴屋華丸、亀屋大吉として。
竹山から指定された場所は、東京深川……。

 再会の場所としてター坊から、いや、カンニングの竹山から指定されたのは、東京の門前仲町にある深川座という劇場だった。


 1993年11月。全国的には無名の地方芸人だった僕たちが、この日、東京にいた理由。それは、村上ショージさんのおかげだった。

 この日、僕たちはショージさんを頼って東京に来ていた。
 目指すは明石家さんまさんのプロデュース公演「今回も・コントだけ」の東京会場となった銀座の博品館劇場。
 ショージさんも出演しているその舞台を見学するために、僕たちは上京したのだ。


「さんまさんの舞台なんて、そんな貴重なもん、絶対に見に行った方がええで!」


 この時期、吉田さんの後釜に座った福岡吉本の2代目所長による粋な計らいで、なんと交通費は全て会社持ち。
 しかも、普通は舞台袖からというのが後輩芸人の見学スタイルなのに、素性の分からない福岡芸人が舞台袖にいると先方も迷惑だろうという配慮で、わざわざ僕たちのために貴重な関係者席を人数分、これまた会社が用意してくれたのである。


「キミたちとショージさんの関係性なら、これぐらいは大丈夫や。僕もさんまさんのマネージャーやったから、その辺もケアしてる。その代わり、ちゃんと挨拶して、しっかり勉強してくるんやで!」

「はい!ありがとうございます!」


 福岡から東京まで、さんまさんの舞台を見に行ける。
 しかも、全部タダで!こんなことがあるとすれば、それは詐欺か夢の話だろう。
 しかし、これは芸歴3年目の地方芸人に起こった、現実の話だった。


 そして、である。
 さすがに宿泊は各自ということで、さてどうしたものかと思案していたところに偶然、それまで全くの音信不通だった竹山から、メンバーの誰かの元に連絡が入ったのだ。

 風の噂で、竹山が東京でケン坊とは違う同級生と「カンニング」というコンビを組んだらしいと聞いていた僕は、この出来過ぎたタイミングが嬉しくてたまらなく、ちょうどその日は竹山も東京の劇場に出るということだったので、それならばカンニングの舞台も見に行くから、夜は一緒に飲みに行って、最後は泊めてくれないかと頼み込んだところ、電話口の向こうで竹山も快諾したのである。

 しかし、東京に知り合いがいるというコンバット、ひらい、そしてケン坊は、今回の再会を見送った。
 結局この日、竹山と会う約束を交わしたのは、何となく予想していた通り、僕と華丸だけだった。


 ほんの少し前まで、会社からゴミや虫ケラのように扱われていた僕たちを取り巻く環境は、この2年間で見違えるほど変わっていた。


 だから、本当のことを言えば、僕たちだって竹山と会うのは気まずかった。
 もし僕たちも東京に知り合いがいれば、さすがに宿泊までは頼まなかったと思う。
 もちろん、久しぶりに会いたかったし、東京での話も聞きたかったけれど、僕たちの現状を知った竹山に、いや、たぶん知っている竹山に、なんて声をかけて良いのやら、それを考えると、あまりにも気が重かったのだ。


 信じられない話だが。

 まるで詐欺か夢のような話だが。

 福岡吉本から竹山が失踪してすぐに。

 僕たちは全員が、売れていた。

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疑心暗鬼

博多大吉

「どうして芸人になろうと思ったんですか?」一番多く投げかけられたこの質問に、いつも心の中で聞き返す。「どうしてみんな、芸人になろうと思わなかったんですか?」ーー時はバブルまっただ中。福岡の片隅で、時代の高揚感に背中を押された少年が抱い...もっと読む

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コメント

susie113 急に2年ショートカット?! と思ったら、中身濃かった  今、華丸さんがジンギスカンを食いまくってるのはこの頃の影響か…(違)⇒  2年以上前 replyretweetfavorite