eコマース(EC)には、大きく分けて2つのビジネスモデルが存在します。
一つ目は、Amazon(アマゾン)に代表されるような「直販型」です。直販型のECビジネスは、自社で商品を仕入れ(買い取り)、それを販売します。
二つ目は、「マーケットプレイス型」です。マーケットプレイス型のECビジネスは、 自社で商品を仕入れることはせずに、売り手と買い手のマッチングだけを行います。マーケットプレイス型の中には、楽天市場、Yahoo!ショッピングのような「店舗出店型」(売り手=店舗)のモデルと、ヤフオク!、メルカリといった「フリマ型」(売り手=個人)と2つのモデルがあります。
ECビジネスで重要な2つの指標
ECビジネスでは
ネット売上=取扱高×テイクレート(Take Rate)
の公式が成り立ちます。テイクレートというのは、取扱高が100あった場合に、いくらの売上になるのかを表す割合のことです。決算書では、「取扱高」のことを流通総額、GMS(Gross Merchandize Sales)、GMV(Gross Merchandize Volume)などと記す場合があります。「テイクレート」も、決算書ではマネタイゼーションレート(Monetization Rate)と表記されている場合があるので覚えておきましょう。
さて、ECビジネスにおけるネット売上がどう作られるのかを、上述した2つのモデル別に見ていきます。まずは、Amazonのような「直販型」から。例えば、Amazonがある商品を900円で仕入れて、1000円で販売したとすると、
- 取扱高(グロス売上)=1000円
- ネット売上=100円
- テイクレート=10%
となります。この例のように、直販型では
ネット売上=販売額−仕入れ値
になります。
他方で、楽天市場のような「マーケットプレイス型」の場合、ネット売上は
- 出店料
- 売上手数料(通常、取扱高の数パーセント)
- 広告掲載料
の3つで構成されます。こう書くと「マーケットプレイス型の方が直販型より収入源が多い」と考える方がいるかもしれません。「取扱高もテイクレートも指標になっていないじゃないか!」と思われる方もいるでしょう。それでも、最終的にはどちらも「取扱高」と「テイクレート」の2つを上げていくことが「ネット売上」を上げる重要な指標になるのです。
なぜなら、ECビジネスは他のビジネスに比べてWinner Takes All(強者がより大きな市場シェアを取る)が起こりやすいからです。中でも最も重要な指標を挙げよ、 と言われたら「取扱高」になるでしょう。その理由を説明していきます。
「直販型」の成功要素=規模の経済
直販型は、取扱高(グロス売上)が大きくなればなるほど仕入れ元から大量に仕入れることになるため、ボリュームディスカウントで仕入れ値が下がります。
仕入れ値が下がれば、販売価格を下げることができるので、同じ商品を競合他社より安く販売できて、さらに多くの商品を販売することができます。
このように、直販型のECビジネスは「規模の経済」で強者が決まっていきます。 Amazonはまさにこのパターンで市場シェアを上げ続けてきたといっても過言ではありません。
「マーケットプレイス型」の成功要素=ネットワーク外部性
一方でマーケットプレイス型は、少し違った仕組みで競争が起こります。
出品者が増えると、出品数が増え、ユーザーから見た「場の魅力」も増すため、購買者が増え、取扱高が増えていきます。取扱高が増えると、出品者から見てさらに「場の魅力」が増すため、ますます出品者が増えていく、というわけです。
このように、出品者と購買者の両側が芋づる式に増えていく「ネットワーク外部性(ネットワーク効果)」によって、マーケットプレイスの勝負が決まるのです。
楽天市場は初期の頃、固定の出店料しか取っておらず、取扱高に比例した手数料を徴収するようになったのは一定の期間がたってからでした。メルカリも同じで、初期は手数料ゼロ円だったのに、あるタイミングから手数料10%を取り始めました。両方とも「場の魅力」が十分高まってきたために「値上げ」できたのです。
こうした前提を踏まえて、さっそくEC各社の決算を見ていきましょう。本章では、はじめにヤフーの決算を紹介します。Yahoo!ショッピングによる「eコマース革命」の詳細分析を通じて、ECビジネスの全体像をつかんでみてください。
Yahoo!ショッピングの「eコマース革命」に学ぶ、ECの収益モデル
しばらく硬直していたEC業界ですが、Yahoo!ショッピングが大きな風穴を開けようとしています。ここでは、ヤフーが2013年に発表した「eコマース革命」以降、Yahoo!ショッピングがどのように収益を上げているのかを解説していきます。
また、この考察を通じて、ECの基本的なビジネスモデルも解説していきますので、本章を読み進める前提知識として参考にしてみてください。
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