女はいつモンスターに化けたのか? 2010年代を代表する傑作誕生—柚木麻子『BUTTER』評

作家、樋口毅宏さんが今回紹介するのは、柚木麻子さんの新作『BUTTER』。木嶋佳苗事件をモチーフに書かれた長編小説です。「本年度のベストブックどころか、2010年代を代表する傑作」と大絶賛する樋口さんは、この作品をどう読んだのでしょうか?
ロックと文学と漫画、そしてプロレスに一生を決定づけられた作家・樋口毅宏さんのサブカルコラム連載です。

いつモンスターにバケたのか

2017年6月26日、京都地方裁判所で始まった筧千佐子の裁判は、初日こそマスコミと野次馬で裁判所周辺がごった返したものの、翌日からは拍子抜けするほど閑散とし、いつもの空気を取り戻していた。一審の判決が出る11月7日まで、裁判は粛々と進められていくだろう。

白髪まじりで地味なシャツ、どこにでもいる初老の女性を傍聴席から眺めながら、どうしてこの人が、わかっているだけでも保険金目当てに4人の夫や知人を、青酸化合物を使って殺害したのか(もちろん本人は否認)、なんとはなしに考えていた。

いったいどの地点で理性を失い、人としての道を踏み外し、モンスターにバケてしまったのか。

裁判所に何日か通っている間、柚木麻子の新作『BUTTER』を読んだ。

私は柚木のことを見知っていた。5年ぐらい前だと思うが、彼女も僕もその頃ツイッターをやっていて、そこから知り合った。

三軒茶屋の書店で僕と水道橋博士がゲリラサイン会をやったときに顔を出してくれたり、白石一文主催のバーベキューパーティーで共に楽しんだり、彼女の男友達の作家を交えてごはんを食べたりしたことがあった。僕がまだ再婚して京都で子育てをする前のことだ。

柚木麻子の印象は、とにかく明るく、からかいやすく、ひょうきんで、サービス精神旺盛。人懐っこく、屈折していて、相手を選んで憎まれ口を叩く、繊細な子というものだった。

つまり、彼女のそれまでの著作、デビュー作の『終点のあの子』、『早稲女、女、男』、『ランチのアッコちゃん』、『伊藤くんAtoE』など、いまどきの小さな悩みを抱えた、どこにでもいる若い女性そのものだった。


角田光代と同じ土俵で闘ってはいけないはずだった

柚木が木嶋佳苗をモデルに小説を書いたと聞いたときは、どうして今さら佐野眞一(犯罪女大好きジジイ)みたいなことをするのか疑問だった。

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青春の終わりとは大好きなバンドが解散することである

樋口毅宏

小沢健二、Great3の復活を、そして「いいとも!」の終わりを予言したと噂の作家・樋口毅宏さんのサブカルコラムがスタート! ロックと文学とプロレスに生涯を決定づけられた樋口さんの衝動をお楽しみください。

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marekingu #スマートニュース 3年以上前 replyretweetfavorite