目標とする人になりきり、自分のものにする
ここからは、さらにプラスアルファの「自分の印象のつくり方」です。「学ぶ」の語源は「真似ぶ」であると言われますが、何事もお手本を真似することが上達の近道。勉強もスポーツも、ビジネスにおいてもそうです。身だしなみ、ふるまいなどについても同じことが言える普遍的なテクニックです。
何をどうしてよいかわからない時に、まず形から入ることも「真似ぶ」のひとつ。形や型をいったん自分に当てはめてみるプロセスに意義があり、私たちが「らしさ」を出せるようになるのはきっとその先の話です。
立ち居ふるまいを会得するのに私がおすすめしたいのは、まずは目標とする人になりきること。何も著名人やドラマの主人公でなくともよいのです。尊敬に値する上司や取引先の社長さんなど、身近な人の方がむしろイメージしやすいかもしれません。抽象的な「いいオトコ」ではなく、具体的な人を思い描けるといいですね。
そうした人をひとり設定し、あたかも自分がその人になったかのように日々演じていると、やがて「自分はどう見られたいか」をコントロールできるようになります。なかなか自分のことを客観視して行動様式を補正していくのは難しいですからね。しかし「なりたい人」を真似しておけば、やがては自分が描く理想像に近づくことができるはず。
この「なりきり効果」は面白いもので、なりきっているうちに体に染みこんでいきます。そして「あの人だったらこの時どうするかな」と、ひと呼吸置いて考えたい場面でも、いずれ「あの人」をそのつど意識せずとも、そのふるまいが「自分のものとして出てくる」ようになります。ちょっとした言葉のチョイス、伝え方のニュアンス、人と接する時の立ち居ふるまい。一度染みこんだものが湧き出たのなら、それはもうあなた自身のものではないでしょうか。
初対面では相手より高級なものを持たない配慮を
あらゆるビジネスは相手ありきです。取引をする相手がいて初めて成立し、実際に対面する場面も少なくないはずです。
ところがプライベートでも親交のある人ならともかく、取引相手はビジネスのみのお付き合いがほとんど。こちらも相手もどういった人となりであるのか、おたがいじっくり話してみないとわからないものです。だから見た目の印象から入らざるを得ないのが現実。初対面なら、なおさらでしょう。そこで一つ、初対面時のアドバイス。営業をかける相手より高級なものを使用しないことです。
相手の持ち物とビジネスの話で、私の知り合いの経営者が「わかりやすいブランド物を身につけている営業担当者が売りこみに来たら、まずは警戒するね」と言ったのをきっかけに、さまざまな人に聞いてみました。
するとビジネスシーンにおける初対面時は、相手のことを観察するために、持ち物まで目が行くようです。特に目立つブランド物に関しては、敬遠される傾向にあるようです。
一番印象的だったのは、私の知り合いで大学生の頃に就職活動でことごとく失敗し、なぜか一度も内定を得られなかったと首を傾げていた男性の話。単純に会社との相性もあったのでしょう。ただ、よくよく話を聞いてみたら、就活スーツに身を包み、持参していたバッグは誰もが知る超高級ブランドのものでした。
そのバッグを就活で持ち歩くことに強いこだわりがあったわけではなく、恋人にプレゼントされたという理由だけで面接会場に持参していました。思い返せば面接官に「最近の学生はそんなバッグを持っているのね」と皮肉を言われたこともあったそうです。その時点で気づけばよかったのですが、彼は褒め言葉と信じそのバッグを使い続けた結果、内定が一つも取れなかったそうです。
今ではリッパに会社を経営している彼が、笑い話として話してくれたのですが、その時はたいへんおツラい状況だったと思います。このアドバイスを聞いて、長年疑問に感じていた就活の苦労を思い出し「まだ社会にも出ていない学生が、面接官にどう映るかを自己分析できていなかった。わきまえていなかった」と、納得していました。就活は自分の人生における最初のビジネスですから、わかりやすい例かもしれません。
また、このアドバイスは私が化粧品メーカー勤務時代に聞いた話からも確信が持てます。それは、化粧品販売員の制服のこと。外資系メーカーの場合はスタイリッシュなイメージで、「お客様の憧れ」となるよう流行の最先端と夢の世界を演出しようとしています。それに対して国産化粧品メーカーの制服は、控えめな色や配色のものが多いのです。これは、清潔感はもとより、お客様よりも華美にならずに本質を売るという姿勢からというもの。
ブランド物がよくないと言っているわけではありません。(すばらしい歴史と技術に富んだブランドは、私も憧れており尊敬しております)ここでは何を伝えたいかというと、持ち物や身につける物にもTPO(時、場所、場合)があるということ。誰も指摘しない小さなことだけど、実はビジネスの成功の分かれ道になっていることが往々にしてあります。やはりTPOを意識のどこかに置いておいても損はないのではないでしょうか。