前回の連載で述べたように、ビットコインはFXなどと同じように投資対象としても魅力があります。では、ビットコインの価格はどうやって決まるのでしょうか。
株式市場や債券市場、外国為替市場など、あらゆる市場がプレイヤー同士の「先読み合戦」によって決まるように、ビットコインの価格もビットコインを売買する人たちの読み合いによって決まります。あくまで先読みなので、経済状況が事前の読み通りに推移している限り、その変化は「織り込み済み」となって、トレンドに大きな変化はありません。価格が上がるトレンドなら上がり続け、下がるトレンドなら下がり続けます。
価格が大きく変化するのは、読みが外れたときです。予想に反して失業率が高かったり、業績が悪化したりすると価格は急落し、逆に予想外にGDP成長率が上がったり、業績がよかったりすると価格が跳ね上がります。
ドル円相場に大きな影響を与えるのは、米国の雇用統計や、日本のGDP速報などの基礎的な情報だけではありません。たとえば、FRBのイエレン議長や、日本銀行の黒田総裁の発言は、政策当局から市場に向けたメッセージですから、市場の動向を読むには必須の情報です。
ところが、ビットコインの場合は、中央で管理している組織がありません。そのため、通常の外国為替とは違った要因で動く傾向があります。上の図を見ながら、代表的なものを五つ挙げておきましょう。
①各国の規制やルールづくりの影響
ビットコインは特定の国のコントロールを受けないグローバルな通貨ですが、世界中で流通するためには、当然のことながら、各国のルールが適用されます。ビットコインを通貨として認めるか、税金はどうするか、取引に何らかの制限を設けるかなど、ビットコインの取り扱いは国ごとに違うので、新しいローカルルールが発表されると、ビットコイン価格は影響を受けます。
たとえば、2013年11月にFRBのバーナンキ議長(当時)が、それまで非公式な存在だったビットコインを認める発言をしたことで、ビットコイン価格が跳ね上がりました。
各国のルールづくりや法整備の中でも注目されるのは、中国の動向です。ビットコインの取引量が最大で、ビットコインを掘り出すマイナー(採掘者)も多くいる中国で突然、取引が停止されたりすると、価格が暴落する可能性を否定できないからです。
中国の人民元には持ち出し制限があります。外国に行く中国人ならほとんど持っている「銀聯ぎんれんカード」は、1日1万元(当時のレート「1元=19円」で計算すると約19万円)までなら自由に外貨を引き出せるとあって、日本での〝爆買い〟を支えていました。ところが、2015年11月に、銀聯カードで外貨を引き出せるのは年間10万元(約190万円)までと発表されたため、ビットコイン価格が跳ね上がりました。銀聯カードに代わる国外送金のツールとして、ビットコインに注目が集まったわけです。
ただ、中国が外貨持ち出しを制限するのは、ある意味、当然です。国内市場が未成熟なまま、国際的な資金移動を自由化してしまうと、国内の富が国外に流出する心配があるからです。日本でも戦後復興期には外貨持ち出し制限があり、制限枠が撤廃されたのは1978年のことです。
しかし、ビットコインの流通量は増え続け、さまざまな取引に利用されるようになってきたので、そうした法規制上の変動リスクは徐々に小さくなっていくものと思われます。
②開発者コミュニティの動向
ビットコインを支えるブロックチェーン技術(今後の連載で解説)はまだ発展途上で、試行錯誤を続けている最中なので、システム上の欠陥(バグ)も見つかれば、技術的なブレイクスルーも見つかります。決して「枯れた技術」ではないので、新たな技術上の課題が見つかったり、それに対する解決策が決まったりすると、マーケットは敏感に反応します。
ビットコインの関係者がおよそ四半期に一度のペースで集まるビットコイン・カンファレンスでは、運営上のルールづくりや、テクノロジーの動向について議論が交わされていますが、そうしたニュースも価格の変動要因になり得ます。あるいは、二つの流派に分かれて技術的な論争が起きたときに、有名な取引所が「こちらを支持する」と態度を表明すると、それによって価格が動くというケースもあります。
ビットコイン開発の中心にいるコア・デベロッパーと呼ばれる人たちの中には、ビットコインのマイニングも流通も中国に偏っている現状に警鐘を鳴らし、「ビットコインはもう終わった」などとブログに書く人もいます。影響力のある人の発言なだけに、それによってビットコイン価格が急落したこともありました。ビットコインに関しては、どこかの国の中央銀行総裁の発言よりも、開発者のアナウンス効果のほうが大きいかもしれません。
③取引所がハッキングされる
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