男友達が、振り絞るような声で電話をかけて来た。
「妻が浮気している。たとえ肉体関係がなかったとしても、絶対に心の浮気をしてる」私は、彼の妻と何度か顔を合わせたことはあるものの深く話したことはないので、浮気をするような人物に見えるかどうかと聞かれても、正直よくわからない。
疑惑のきっかけは、2ヶ月ほど前。妻がネットで、下着やら女子力がアップしそうな小物や化粧品をしょっちゅう買っていることに、夫が気がついた。注意深く観察していたら、そういった買い物を繰り返しているらしい。
「……って、それだけ⁉︎」「ああ、今のところな。でも間違いない。そうやって買った下着を俺は家で見かけたことがないんだ」「いやいや、『これいいな』と、思わずポチってしまうことなんて、誰にでもあるって。届いてみたら、ちょっとイメージ違うからそのままになっちゃったとか、買っただけで満足しちゃうことだってあるよ。ちょっと考えすぎじゃないの?」
「だけど、なんだかいつも上の空なんだよ。オレの顔をまともに見ない。いや、あれは見ないんじゃないな。見られないんだ。それって、やましいことがあるからだろう?」「いやあ……だとしても、もうちょっとハッキリなにかないと、なんとも言えないよ」「そうか……」
そんな会話から2週間後。
「相手がわかった」なぜかやけに自信満々な声で、男友達が電話をかけて来た。妻は、あれから毎日買い物をし続けている。おかげで家は段ボールだらけ。開けずに積まれている箱もある。そんな妻の浮気相手は、彼いわく「ちょっと見イケメンの宅配便の若い男」らしい。
「その男に会いたくて、毎日買い物をしているとしか思えない」と彼は言う。頭から「浮気している」と決めつけてうかがっていたら、そう見えるのかもしれない。けれど端(はた)から聞いていたら、開かないダンボールが山積みだなんて、単純に、妻はもっと大きな問題を抱えているのではないかと心配になる。
「たとえば精神的に参ってるとか、そういう可能性はないの?」彼が電話の向こうで息をのんだ。思い当たることがあったらしい。結局、妻は色々と問題のある女性だらけの職場で、精神的に追いつめられて心を病んでいたことがわかった。キッパリと仕事を辞めて休養をし、夫が話を聞くようになると、ゆっくりと回復していったと言う。
もうひとつ、知人夫婦の話。その夫婦のご主人は、月に1度、週末に福岡出張へ行く。とてもグルメな方で、私たち夫婦もスケジュールが合ったりすると、福岡に出向き、東京ではなかなかお目にかかれないような肉料理の店や、東京の有名店からUターンした大将が営むお寿司屋さんにご一緒させていただく。私たちは大抵飛び入り参加なので、当日空いてるホテルを見つけて泊まるのだけれど、その方は、有名ホテルを定宿にしている。
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