「……そんなもんですか?」
「そんなもんや」
百鳥ユウカは、警官の山本の妻、和子の話を縁側で聞いていた。
「さぁさぁ、もうええやろ。ウチの馴れ初め話は……」
和子は、立ち上がって居間の奥へと下がっていった。奥では確か山本が寝ているはずだ。和子が山本を起こしている声がする。
「ふぁぁ、もうこんな時間か。外は真っ暗やないか」
奥から山本の声だけがする。
「百鳥さ〜ん、どないするんや? 別荘まで送っていくか?」
おそらくまだ寝床にいる山本からユウカに声が飛んだ。すると、和子が山本にいう。
「真っ暗でバイク運転するのは危ないやろ。あの子は今日泊めたったら?」
「ほんまか、ちょっと厄介な娘やぞ……」
「ちょっと疳(かん)が強いだけやろ。根は優しい子やない」
「ほうか……」
「それじゃ、うちは夕飯の支度するから、あんたは風呂でも入ってきんさい」
夫婦間の話し合いはあっさりこれで終わったらしく、ユウカは山本の家に今夜は泊まることになった。ユウカにも異論はない。そもそも別荘に帰る足もないのだから仕方ない。とはいえ、ユウカは和子の立ち居振る舞いに惹かれるところがあり、一晩一緒にいられるのは嬉しかった。ユウカは、アキといい和子といい、強い自分を持っている女性が好きなのだ。それは自分に足りない部分だと思うから。ユウカは男に厳しくて我儘ばかりいう印象があるけれど、それは内面の強さからではなく、内面の弱さから出ている。いつも正解を求めていて、誰か全部を許してくれる存在を探している。
ここまで読んでくれた読者はわかると思うけど、ユウカは自分の中に答えがないから、いつまでも正解を追い求めることができて、妥協ができない。心が納得する答えを求めているから、いつまでも正解にたどり着くことができない。すごく逆説的だけど、それが本当のところだと思う。
アキや和子は自分の頭で考えて答えを見つけることができるけど、ユウカにはそれができない。だから、男を試すような真似をいつまでも繰り返す。
この時点でのユウカも、薄々それに気づいていた。
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