私が常日頃から、カッコいいなあと思っているその男の人と六本木を歩いていた。
二人でイタリア料理を食べ、ワインを二本飲んだ。彼は私と全く違う職種であるが、それゆえ話が大層面白い。盛り上がってもう一軒飲みに行こうということになった。
六本木は旧テレ朝通りの裏の方、夜遅いからほとんど人通りはない。時折、ちらちらと二人の手が触れたりする。
そお! もう長いこと忘れていたけれども、恋の始まりってこんな感じだったわよね……。その時、彼の声がひときわ大きくなり、それに混じって異なるヘンな音も聞こえてくる。まさか、と思ったけれども一応尋ねてみた。
「ねえ、今、オナラしたでしょ」 「したよ」
とあっさり答えたのはいいけれど、それまでのロマンティックな雰囲気は全く消えてしまった。私は腹が立つより先に笑ってしまった。 「私とこの人って、絶対に何も起こらないわね」
さて、話はもっと深刻なことになるのであるが、女のコを何年かやっていると、むずかしい問題が時折生じてくる。つまり、この男の人はずうっと友人のままにしておくか、それとも恋人に昇格していいのかという選別である。男の友だちとしてはすごく楽しい。気は合うし、電話一本ですぐ来てくれる。こちらが失恋した時は、ちゃんと愚痴を聞いてくれてとてもやさしい。あんまり楽しくないけれど、あちらの彼女のことだってちゃんと知っている。
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