輝く翡翠色のアオムシ
畑では害虫でも、野菜にくっついて家まで来れば、もうそれは同じ星に生きる友だちだ。
アリ一匹でも殺さず逃がす私のもとに、ある日、翡翠色のキュートなアオムシがやってきた。
「このアオムシを飼いたい。家でチョウにしたい」
そう提案すると、めずらしく夫が承諾した。それどころか、名前までつけてくれた。
“シルビア・グリーンダイヤモンド・チンゲンサイ”
「シルビア」といえば、往年の日産車だ。
「グリーンダイヤモンド」は、「翡翠」の英語名がわからなくて思いついたらしい。
そして「チンゲンサイ」は、彼女のお里である。お隣のN村さんにもらったチンゲンサイにくっついてきたのだ。シルビアと名がついた以上、「彼女」でいいだろう。
「あなたはモンシロチョウなの?」
毎日キャベツを与え、私はシルビアの頭部をなでながら語りかけた。
「アゲハになると念じていれば、きっとかなうからね」
すると日が経つにつれ、彼女の様子が変わってきた。何を念じたのか、薄茶色に変色し、ぶよぶよと太ってきたのである。
これはモンシロチョウではなさそうだ。かといって、アゲハになる気配でもない。
夫は「ツチノコだ」と言い出した。「気持ち悪いから捨ててきな!」
シルビア・グリーンダイヤモンドという名が似合わない風貌になってきました。おまえ、いったい何者だ?
シルビア危篤
私は、当時書いていた菜園ブログにシルビアの写真を載せ、悩みを打ち明けた。すると菜園家の読者からこんなコメントがついた。
「鳥も食べないヨトウムシだと思う。恐ろしくまずいんだって」
ヨトウムシとは、菜園で嫌われモノのイモムシだ。ヨトウガというガの幼虫で、漢字で書けば「夜盗虫」。文字通り、夜に動き回って、野菜を盗み食う害虫である。
ヨトウガは、これによく似た「ヤガ」の仲間です。ヤガの仲間は、ダースベーダ―っぽいんですよね。
私はすぐさま反論した。
「ヨトウムシって、土の中で丸まっている不気味なイモムシですよね。シルビアは翡翠色だったんです。ヨトウムシなら昼は寝ているはずなのに、シルビアは起きてキャベツを食べてますよ」
もちろん、ネットでヨトウムシを画像検索もした。
「うーむ……」
似ていなくもない。けれど、そっくりでもない。
「きっと茶色系のチョウの幼虫に違いない」
私はそう信じ、夫に隠れてシルビアを飼い続けた。
するとまもなく、彼女は急に体を縮め、お尻から汁を出したのである。慣れない環境で、神経性の下痢になってしまったのだろうか。
「シルビア危篤!」
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