裏側の世界で悲しみを歌うロンドン・グラマー
柴那典(以下、柴) 今回もまずはそれぞれの推し曲の話をしていこうと思うんですけど、ロンドン・グラマーってバンド知ってます? これが最高なんですよ。
大谷ノブ彦(以下、大谷) お、知らない。誰ですか?
柴 イギリスのノッティンガム出身の3人組なんですけど、とにかく何を歌っても悲劇になってしまうんです。MVはロンドンのラウンド・チャペルという教会でライブをやったときの映像で、曲名が「Hell to the Liars」、つまり「嘘つきは地獄に落ちる」という曲。
大谷 すこし讃美歌のような雰囲気もありますね。
柴 そうそう。6月に出たアルバムは『Truth Is a Beautiful Thing』。つまり「真実は美しい」というタイトルで、表題曲もすごくダークで悲しい感じなんです。歌詞を読むと、どうやら亡くなってしまった人に思いを馳せるような内容になっている。
柴 そして、ボーカルのハンナ・リードの声がいいんです。ただ歌が上手いだけじゃなくて、この声で歌うからこそ全部の曲に神話のような悲劇性がある。
大谷 いわゆる被害者というか、傷を負ってしまった人の立場の歌ってことですよね。
柴 そうなんですよ。で、こういうタイプの音楽って、今の時代だと”裏側”だと思うんです。メインストリームには、打ちひしがれるような悲しみを歌う人が全然いない。たとえばカルヴィン・ハリスの『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』は間違いなく今年を代表するアルバムで、めっちゃ最高なんですけど、基本的にはご機嫌なアルバムですよね。
大谷 そうですね。快楽的というか。
柴 夕焼けのビーチでかかってたり、ドライブのBGMにしたり、基本的には「楽しもう。人生、いい感じだぞ」というムードの音楽なんですよ。そういう人生の表通りに似合う音楽がシーンを席巻している一方で、孤独を抱えて泣き濡れてるような人たちは全員ロンドン・グラマーを聴いてほしい。
大谷 PJハーヴェイとかパティ・スミスと雰囲気は似ているんですけど、またちょっと違う声色というか。
柴 そうですね。一番近いのはポーティスヘッドだと思います。かつて90年代にポーティスヘッドがやっていた憂鬱と悲しみの音楽を、今の時代に新しいスタイルでやっている感じがします。
コンプレックスは武器! ありのままをさらけ出すCHAI
大谷 僕のイチオシはCHAIっていう名古屋の女の子のバンドなんですよ。彼女たちの何がすごいって、自分の欠点をめっちゃ見せるんです。
柴 というと?
大谷 たとえばボーカルとキーボード担当のマナちゃんってお腹が出ているんですって。そしたら、そのお腹がパンパンに膨れている状態をアー写に使う。ありのままの自分を出すっていうのが、自分たちの武器だっていうんです。
柴 自然体のほうがむしろかわいいってことだ。
大谷 世の中の「かわいい」に合わすんじゃなくて、自分たちが「かわいい」と思ったことを追求してる。それが認められるから、どんどんやりたいことができる。それってすごく今の時代にあっているなって思うんです。
柴 なるほどなあ。
大谷 「sayonara complex」という曲がまさにそういう曲なんですよ。そういう「コンプレックスなんて武器でしかない」っていうメッセージが詰まっている。
大谷 正直、そこまでルックスがいいわけじゃないですよ。美人ではない。でも4人が楽しそうにしているのがすごくキラキラしていていいなと思うんです。あと、もう一つ大好きな曲に「ボーイズ・セコ・メン」というのがあって。
大谷 これ、「彼氏にしちゃいけない3B」というのをテーマにした曲なんです。
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