工場でみんなに〝生還〟を祝われた後、徹生は会社を出て、その足で警察署に向かった。
殺したのは佐伯だという権田の断言が、彼を勇気づけていた。やっぱりそうだった! それは、権田自らが確信し、口にした言葉だった。決して徹生の思い込みに同調したわけではない。千佳や安西には、うまく説明できなかったが、佐伯のことをよく知っている人間なら、彼に殺されたという主張が、決して突飛でないことは納得できるはずだった。
徹生は警察署で、再捜査を願い出るつもりだった。取り分け、屋上入口の防犯カメラのことを知りたかったが、同時に、今後の自分と家族の身の安全も求めなければならなかった。佐伯を追っているはずが、いつの間にか、こちらが背後から追われていた。そうなることを権田も心配していて、とにかくすぐに警察に行けと、別れ際にはしつこいくらいに念を押された。
『それで結局、俺は何を喋ってきたんだろう?……』
話を終えて、水尾署から出てきた徹生は、緊張から解放されて、自分でも持て余すような歪な高揚感に初めて気がついた。
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