涙を流す彼に、ムッシュが渡した最後のプレゼント

泣かないでいてくれて、ありがとう。泣きながらそう言う星太朗に、ぬいぐるみのムッシュは自分のヒゲを差し出した。親友の涙を、拭ってあげるために。2人は、お互いの大切な思い出を胸に、別々の道を歩みだす……。
とうとう最終回!ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!

 数日後。ろば書林では、いつもと変わりない時間が流れていた。

 門馬は激しい身振り手振りで得意先と電話をしている。

 小南はヘッドホンの音楽に乗って、高速でキーボードを叩いている。

 西野は不味いコーヒーを飲みながら、原稿に目を通している。

 赤ペンを取ろうと手を伸ばすと、積まれた本の上に爽やかな水色が目に入る。ペンをスルーして、その美しい折り鶴を手に取ると、ちらっと向いのデスクを見つめた。

 そこには、新人の青年が座っている。

 西野は鶴を少し持ち上げて、ぱたぱたと飛ばせてみる。

 それからすぐに元の場所に着地させて、ペンを手に取った。


 つばめ台団地は夕日に照らされながら、子どもたちの遊び声を響かせていた。

 きゃっきゃと子どもが駆け回っているので、タコ山もどことなく嬉しそうだ。


 家主がいなくなった部屋には、寂しさが静かに漂っていた。

 きれいに整頓されてはいるが、テレビもソファも絨毯も、二人が住んでいたころのままだ。

 壁には、たくさんの文字や星も、そのまま残されている。

 ③ババ抜きでムッシュに勝つ

 唯一これだけに、花まるが付けられていない。

 ⑩ムッシュの新しい友だちを見つける

 にも花まるがついていたし、

 それからもう一つ、

 ⑩星太朗を死なせない

 これも大きな花まるで囲まれていた。


 日が沈み、微かな明かりが襖を照らしている。

 そこには小さな襖がもう一つ付いていて、その向こうの部屋には、大きい布団と小さい布団が二つ、きれいに畳まれている。

 それは寄り添い合うように、仲良く並んでいた。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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