ムッシュはそこまで読んで、ぴたりと手を止めた。
振り返って星太朗を見る。
何を聞いていいのか、何から聞けばいいのか、わからなかった。
星太朗はおもむろに膝をつくと、本棚の上段を眺めた。その棚には、二人の、特にお気に入りの本が並んでいる。
「……僕も、思ってた。九個じゃ中途半端だなって」
星太朗は母の本を一冊ずつ丁寧に取って、テーブルに置いていく。
本棚の中から顔を出した壁に、小さく、でも力強く、星太朗の字が書かれていた。
⑩ムッシュの新しい友だちを見つける
「何これ……。ダメだよそんなの! 何だよこれ! 言ったでしょ、ぼくもせいたろと一緒にいくって!」
ムッシュは大声を上げた。
星太朗は落ち着いて、ゆっくりと言葉を返す。
「いや、いけないよ」
「ダメ。それだけはきけない」
ムッシュは怒る。
そんなことは、ありえないことだ。許せないことだ。
星太朗から顔を背けて、全身でその意思を伝える。
「頼むから」
「無理だって。叶えられないよ」
「頼むって」
「無理!」
「頼む。お願い」
「無理!!!」
ムッシュは声を荒らげると、襖を突き破りそうな勢いで逃げていった。
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