コアラのぬいぐるみにババ抜きで勝つ方法とは?

入院する、という星太朗と最後のババ抜き。ぬいぐるみのムッシュは、どうしても星太朗を勝たせてあげたいと思っていた。だが、星太朗の表情を見たムッシュは、もう嘘はつきたくない、と星太朗の心と向き合った。
ぬいぐるみと出版社校正男子の切なさMAXの友情物語小説『さよなら、ムッシュ』を特別掲載!
イラストは、なんと松本大洋さんの描きおろし!


 名残惜しいからか、カードが減っていくのはいつもよりゆっくりだった。

 けれど、終わりは必ずきてしまう。

 ついにムッシュのカードが残り一枚になった。星太朗は二枚。次はムッシュが引く番だ。

 目をしっかり見つめるために、立ち上がる。

 すると星太朗は、すっと瞼を閉じた。

「秘策」

「あっ、ずるい!」

「知らないの? 大人はずるい生き物なんだよ」

 目を閉じたまま、星太朗は憎たらしく笑う。

「正々堂々と勝負しないと後悔するよ」

「勝ちにこだわる。それが本当の勝負でしょ」

 星太朗は眉間に力を込めて、さらにぎゅっと目を瞑った。

 ムッシュは星太朗の顔を見て、しばらく悩む。

 さすがに表情は読めなかった。

 右手のカードに手を伸ばす。

 が、その手を止めて、こっそりカードを覗き込んだ。

 2。

 予想通り、ババは左手だ。

 星太朗は気付いていない。

 大人はずるい生き物なんだ。

 心の中で言い返す。

 そう、ムッシュは大人になったばかりだった。

 迷うことなく、左手のババに手を伸ばす。

 これが最後の勝負だ。

 どうしても星太朗に、勝たせてあげたかった。

 ちらっと星太朗を見ると、もう眉間に力は入れていない。やわらかく、穏やかに目を閉じている。お墓で手を合わせていたときのような顔をして。

 ムッシュはその表情を見て、手を止めた。

 自分もそっと目を閉じて、星太郎の心に向き合う。

 目を開けると、今度はゆっくり手を伸ばし、カードに触れる。

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さよなら、ムッシュ

片岡翔

あの日。気がついたら、その子は話しはじめていた。コアラのぬいぐるみのはずなのに。 それ以来、彼はそのことを20年間秘密にして、生きてきた――。 気鋭の新人映画監督・片岡翔が初めて小説『さよ...もっと読む

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