藤田貴大
充血した目に、点眼。したい。
-クソ野郎はぼくひとり-
【第9回】なぜ、その女優のそこまで支配したがる? 不測の事態だというのに、嬉々として事に当たる、演劇作家の知られざる生態を自ら独白!
移動中のバスのなかで、ぼくの作品によく出演している女優の吉田聡子の目がとても充血してしまった。眼球もそうだが、まぶたまでほんのり赤い。彼女曰(いわ)く、こんなに充血したのは初めて、とのこと。周りは、さとこだいじょうぶ?と心配するが。ぼくはといえば、聡子には申し訳ないが、しばらくそのままでもぜんぜん。ぼく的にはかまわないよ。むしろまだその充血した目を眺めていたいよ。収まらないで、血管。まだまだ目のなかで、どくどくしていてください。と、こころのなかで懇願するのだった。ある意味、新鮮さがあったのだろう、興奮していた。もともとそんなに目がおおきく見えたり、くっきりしていたりとか、そういう派手さはない一重まぶたの聡子の目は。もちろんだけれど、充血しなくたってとても好きで。でもそんないつもの、バスに乗る前はなんの変哲もなかった聡子の目が、バスから降りたら急に赤い。赤すぎる。意外なところから切り込んでこられて、不意を突かれた。
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。