「ほら、ここにも雑草がまだ残っとるよ」
山本の妻である和子は、遠慮なくユウカに注文を出す。さっきまで、ユウカはお客さんだったはずなのだが、和子の口調はキツい。
「は、はい。あの和子さんて、人から厳しいって言われたりしませんか」
そんなユウカの言葉に対して、和子はケラケラと笑うと、
「ないよ。優しいと言われとる」
「そうですか……」
「ウチの人の後ろに乗ってここにやってきた女だけは別じゃ(笑)あそこは、ウチだけの場所やで」
「ええぇ! そんなつもりじゃ……」
冗談めかしてみせたやきもちは他の人なら可愛いのかもしれないが、和子がいうとやや怖い。ユウカはとっさに話題を変えた。
「あれ? 山本さんは?」
「あぁ、もう寝とるよ。昨日は泊まり番じゃったから、きっと今頃、居間で高いびきじゃろうて。あんたは、どこから来たん?」
「えーと、神戸? でも、その前は熊本にいて、その前は東京かな」
「そうか。なんぞあったんか?」
「うーん、なんか、なりゆきでいろんなとこ行ってるね。でも、こんな生活も悪くないよ」
「もうええ年齢じゃろ、結婚はせんのか?」
「相手がいないもん。いれば、即するよ」
ユウカは、丹念に草むしりをしながら(あとで和子に怒られないように)答えていた。和子は、ユウカのすぐ後ろでトマトの苗木から無駄に生えた枝葉を整理している。ちょきんちょきんと太くなりかけの枝にハサミをひっかけてフンと力を込めて切り落とす。
「あんたは男に対して厳しいんじゃろ。あれがダメ、これがダメとか」
「そうかなぁ。ちゃんといいところを見ようとしてるよ。でもさ、そんな広い心を裏切ってくんの。男っていう生き物は」
「あはは。男のせいにしちゃいかん。たいがい女も悪い」
草むしりを終えると、和子はユウカに冷たい濡れタオルを渡してくれた。
「はぁ〜、気持ちいい」
「ここの裏の井戸でくんだ水は真夏でも冷たいよ。そのタオルは井戸水で濡らしたよ」
「ありがとうございます」
「あんた、シャツも汚れてしもうたな」
「うん、もう汗でベタベタ。どうしようかな」
「ええよ。ウチの風呂つこうても」
「やったぁ」
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