第199回 からみあう素数(前編)

「それって偶然じゃないの?」とユーリは言った。「整数に誘われて」シーズン第5章前編。
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
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僕の部屋

ここはの部屋。いつものように従妹のユーリが遊びに来ている。

ユーリが遊びに来ているというか……ええと、 現状を端的に表す表現は「ユーリ詰問されている」なんだけどね。

言うまでもなく、詰問されているのは、他ならぬだ。

ユーリ「だから、この数式の意味を教えてよー! 早く早く!」

ユーリはレポート用紙の切れ端に書かれた数式を僕に突きつける。

「$(p-1)(q-1)$という数式の意味? $p-1$と$q-1$の積だよ」

ユーリ「そーゆーんじゃなくて、もっとカッコイイ意味があるんでしょ?」

「そもそも、この数式はどこからやってきたの?」

ユーリ「えっとね。《とある知人》から」

「《とある知人》というボーイフレンドね。はいはい」

ユーリには数学やクイズで競っているボーイフレンドがいるのだ。 確か先日は微分でチャレンジを受けていたはず(『微分を追いかけて』参照)。 きっとこれもその類いなんだな。

ユーリ「センサクはいいから。$(p-1)(q-1)$の意味は? さーさー!」

「$p$や$q$に何か条件があるんじゃないの?」

ユーリ「そーだった。$p$と$q$は素数で$p < q$だって」

「へえ。ということは、話を整理すると、こういう研究クイズ?」

研究クイズ

$p$と$q$は素数で、$p < q$だとする。$p-1$と$q-1$の積すなわち、 $$ (p-1)(q-1) $$ には興味深い性質があるらしい。それを自由に研究してみよう。

ユーリ「研究クイズ?」

「そういうことだろ? クイズなんだから、恐らく《彼氏》が想定している答えはある。 でも、解くべき問題は明確じゃないから、 自由に研究してかまわない。何かおもしろい性質を見つけてみよう……と、 そういうことなんじゃないの? 自由に研究するクイズ。研究クイズ」

ユーリ「《あいつ》は《彼氏》とかじゃないし……」

「ユーリはどんなふうに考えたんだろう」

ユーリ「うーん……偶数になるのはすぐわかったけど、そっから先はおもしろい性質なんてわかんなかった」

「こういうものを研究するときには、小さい数で試すのが大事だよね」

ユーリ「ふんふん。プロの選ぶ王道ですか」

こんなふうにして、僕たちの数式探求が始まった。たった一つの小さな数式、 $$ (p-1)(q-1) $$ は僕たちをどこまで連れて行ってくれるんだろうか。

小さな数で試す

「$p$と$q$は素数で、$p < q$が成り立っている。そのときに$(p-1)(q-1)$を調べてみる。小さな数でね」

ユーリ「小さな数って、たとえば、$p = 2$で$q = 3$ということでしょ?」

「そういうことだね。素数は、自分自身と$1$以外に約数を持たない$2$以上の整数。具体的には$2,3,5,7,11,13,17,19,\ldots$だから、 この中から異なる二つの数を選べばいい。二つのうち小さい方を$p$にして、 大きい方を$q$にすれば$p < q$という条件は満たせることになるね」

ユーリ「カンタンだよ! $(p-1)(q-1) = 2$でしょ」

$p = 2, q = 3$の場合

$$ (p - 1)(q - 1) = (2-1)(3-1) = 1 \cdot 2 = 2 $$

「そうだね。他の場合も考えてみよう。たとえば……」

ユーリ「たとえば、$p = 2$で$q = 5$のとき!」

$p = 2, q = 5$の場合

$$ (p - 1)(q - 1) = (2 - 1)(5 - 1) = 1 \cdot 4 = 4 $$

「あたりまえだけど、$p = 2$のときは、$(p-1)(q-1) = q - 1$になるね」

ユーリ「そだね。必ず偶数になる」

「うん。素数の中で偶数なのは$2$だけ。$2$以外の素数はすべて奇数になる。 $p < q$だから、$q$は絶対に奇数。 だから$q - 1$は絶対に偶数になる。つまり$p = 2$のとき、$(p-1)(q-1)$は偶数になるよ」

ユーリ「$q-1$は絶対に偶数になるんだから、$p$が$2$じゃなくても$(p-1)(q-1)$は絶対に偶数だよ」

「そうだね。その通り」

研究クイズの答え(その1)

$p,q$は素数で$p < q$だから、$q$は奇数になり、$q - 1$は偶数になる。

したがって、$(p-1)(q-1)$は偶数になる。

ユーリ「こんなのはすぐわかるもん。そーじゃなくて、もっとすごい性質ないの?」

「うん。$(p,q) = (2,3)$と$(p,q) = (2,5)$の場合を調べたけれど、もっと調べてみよう。そのために、こういう関数$f$を定義しよう」

$$ f(x,y) = (x - 1)(y - 1) $$

ユーリ「へ?」

「こうすれば、僕たちが具体的な数で試すときに書きやすいからね。調べたことを、 $$ f(2,3) = 2 $$ や、 $$ f(2,5) = 4 $$ のように簡潔に書くことができる」

ユーリ「ほほー」

「もっと一般的に、こんな書き方もできるわけだ」

$$ f(2,q) = q - 1 $$

ユーリ「なるほどね」

僕たちはいくつかの$f(p,q)$を計算した。計算自体は難しくない。
$f(p,q)$の表を作る $$ \begin{array}{c|ccccccccccccc} (p,q) & (2,3) & (2,5) & (2,7) & (3,5) & (3,7) & (5,11) \\ \hline p-1 & 1 & 1 & 1 & 2 & 2 & 4 \\ q-1 & 2 & 4 & 6 & 4 & 6 & 10 \\ \hline f(p,q) & 2 & 4 & 6 & 8 & 12 & 40 \\ \end{array} $$

「……」

ユーリ「……何かわかった?」

「いや、わからないなあ。強いていえば……うん、$f(p,q)$の値は、$(p,q) = (2,3)$を除けば素数にならない」

ユーリ「そりゃそーですなー。$f(p,q)$は偶数で、偶数の素数$2$になるのは、$f(2,3)$だけだもん」

研究クイズの答え(その2)

$(p,q) \neq (2,3)$とする($p \neq 2$または$q \neq 3$とする)。

このとき、$f(p,q) = (p-1)(q-1)$は素数にならない。

「そもそも$p-1$と$q-1$の積になってるんだから、$p-1$が$1$になる場合に注意すれば、素数じゃないというのはすぐわかる。 ……そうか、$p,q$という二つの素数が出てくるんだから、 さっきのような一次元の表じゃなくて、二次元の表にすべきなんだな」

$f(p,q)$の表を作る(二次元) $$ \begin{array}{c|ccccccccccccc} f(p,q) & 3 & 5 & 7 & 11 & 13 \\ \hline 2 & 2 & 4 & 6 & 10 & 12 \\ 3 & & 8 & 12 & 20 & 24 \\ 5 & & & 24 & 40 & 48 \\ 7 & & & & 60 & 72 \\ 11 & & & & & 120 \\ \end{array} $$

ユーリ「ほほー……で?」

「うーん……特に何かがわかるわけでもないか」

ユーリ「ねーお兄ちゃん、ユーリ気づいたことあるんだけど」

「何か発見した?」

ユーリ「んにゃ。いまお兄ちゃん『二次元の表にすべき』っていったじゃん? そーじゃなくても、二次元だよね?」

「どういう意味?」

ユーリ「$(p-1)(q-1)$っていう掛け算なんだから、縦が$p-1$で横が$q-1$の長方形の面積みたいな」

「なるほど! 確かに! たとえば、$p = 3, q = 5$なら、こういう意味?」

$p = 3, q = 5$で$(p-1)(q-1)$を図示する

ユーリ「そーそー。$f(3,5) = 8$ってゆーのは、長方形の中に置いた白丸の個数でしょ? そこに何か深ーいイミが隠されてる?」

「うーん……どうだろう」

ユーリ「あんまり、関係なかった?」

「掛け算を作ってみればいいのかな……違うか」

ユーリ「わかった! 白丸のところに来る数は$3$でも$5$でも割り切れない数になるんだ!」

「いやいや、そんなことないよ。だって$6$はおもいっきり出てくる」

ユーリ「ありゃ。ほんとだ」

「……少し見えてきたぞ。《条件をすべて使ったか》だな!」

ユーリ「条件?」

「うん。ユーリの長方形のアイディアはとてもよさそう。条件《$p,q$は素数である》を使うんだ」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに12巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

koru_prg @ferin_tech15 https://t.co/pHPior9B9o φ関数って聞いてからだとアレですけどこういうのも面白いです! (数学ガールを布教していく) 3年弱前 replyretweetfavorite

yucken この問題を n 次元拡張したらどうなるんだっけとか考え始めたので僕はもうダメかもしんない( x )> 約3年前 replyretweetfavorite

chibio6 最後の問題、難しそうだ。 約3年前 replyretweetfavorite

junjis0203 素数回に素数の話。こういうあることについてああだこうだ研究するのいいな 3年以上前 replyretweetfavorite