毎日狂ったように聴いてしまう、快楽原則を最優先させたドラッグパーティーアルバムについて

作家・樋口毅宏さんが今回取り上げるのは、サニーデイ・サービスの全22曲入りの新譜『Popcorn Ballads』。はやくも樋口さんの2017年ベスト候補、どうしても書かなければと思わせた、才能がほとばしる圧巻の作品についてです。
ロックと文学と漫画、そしてプロレスに一生を決定づけられた作家・樋口毅宏さんのサブカルコラム連載をお届けします。

cakesにテキストを書くのは一年ぶりだ。

サニーデイ・サービスの新譜『Popcorn Ballads』(全22曲)について、どうしても書かねばなるまいと筆をとった。はやくも2017年のベスト候補である。


『Popcorn Ballads』
※spotifyにて全曲聴けちゃいます

去年も大傑作をリリースしたのに

以前に曽我部恵一について書いたが、まさかまた彼を取り上げることになるとは、正直思わなかった。

去年の曽我部恵一は例年にも増して精力的だった。

名盤『東京』の20周年を記念してボックスセットと完全再現ライブの興奮も冷めやらぬうちに、ニューアルバム『DANCE TO YOU』をリリースした。これが2010年代の音楽シーンを代表する大傑作。


DANCE TO YOU

去年の11月に京都のライブハウス磔磔でアクトを観たが、生き様が見えてくるような、狂い咲きで壮絶な3時間だった。

「若者たち」の古き日本歌謡を思わせる唱法に、ただひとりのオリメンになったベース田中貴(CSフジで自分の番組を持つラーメン評論家でもある)とふたりきりのコーナーに、名曲「セツナ」はいったん終わったと思いきや、続けてもう一度頭から、20分近く鬼気迫る演奏で、ギューギュー詰めの観客は驚嘆し、唖然とし、平伏した。

なんちゅうクライマックスや。

……と思ったのも束の間、実はこれさえ通過点で、ボルテージが落ちることなく、さらに「白い恋人」「桜 super love」「コーヒーと恋愛」など、新旧の代表曲が織り交ぜて歌われた。


「きみがいないことは、きみがいることだなあ」と、体調不良により長期離脱中のドラム丸山晴茂に向けて書かれたようなキラーフレーズだが、MCでは愛犬と散歩していた時にできたと語っていた。

も、完全降伏。

初めてサニーデイのライブを観た妻は、去年のベストライブに挙げていた。


ちなみにベースの田中は今回のツアーの機材運搬ドライバーを兼ねていて、曽我部とドラムの鈴木、キーボードの高野、マネージャーは新幹線で帰ったが、田中は朝から6時間車を運転し、3時間演奏して、また6時間かけて東京に帰っていった。

ライブ後、疲労困憊のあまり、マルシン飯店で天津飯を半分残すほどだったが、事故死しなくて良かったと心から思う。

後日、ツアー千秋楽が控える東京在住の知人たちに、「絶対サニーデイのライブを観たほうがいいよ!」とメールしまくったのは言うまでもない。

才能が迸り、溢れ、炸裂しているドラッグパーティーアルバム

さて、ここからが本題。

6月2日、スポティファイとアップル・ミュージックで、サニーデイ・サービスのニューアルバム『Popcorn Ballads』がいきなりリリースされてからというもの、毎日狂ったように聴いている。


『Popcorn Ballads』

全22曲、85分。CDの枠に収まりきれない才能が迸り、溢れ、炸裂している。
とことんアナログ人間だが、スポティファイは無料会員に入っていて良かった。


一聴してまず思ったことは、曽我部はこういうことをやりたかったんだなあ。

まるでカニエ・ウエスト。
まるでフランク・オーシャン。
まるでチャンス・ザ・ラッパー。
まるで宇多田ヒカル。

つまり、世界と同時進行の「今の音」が詰まっている。

そして、まるでニューヨークの伝説のディスコ、パラダイス・ガレージ。
ソウル、ラップ、エレクトロなど、快楽原則を最優先させたDJアルバム。夢のような時間が過ぎ、覚醒が起こり、煌めき、気怠さまで内包したパーティータイムが駆け抜けていく。

サニーデイ・サービスが17年前に同じくダンスアルバム、『LOVE ALBUM』でできなかったことをやった、まるでドラッグパーティーアルバム。

(このテキストをいったん書き終えた後で、サインマグの曽我部のインタビューに目を通したら、上記のミュージシャンと何人か被っていて、やっぱりなと感じた。
あとこのロングインタビューを読むと、どうして『Popcorn Ballads』が作られたのか、よくわかりました。
曽我部のインタビューはわりかし抽象的なものが多いのだが、具体的な作品を挙げて、しかもリンクが張られて聴けることで、彼の最近の音楽的嗜好への理解が深まる。素晴らしい。これがタダなんて音楽雑誌はどうしたらいいのか)

緩慢で退屈なルーティンをぶち壊した衝動

「サニーデイ・サービス」と聞いて、人はどんなイメージを持つだろうか。

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青春の終わりとは大好きなバンドが解散することである

樋口毅宏

小沢健二、Great3の復活を、そして「いいとも!」の終わりを予言したと噂の作家・樋口毅宏さんのサブカルコラムがスタート! ロックと文学とプロレスに生涯を決定づけられた樋口さんの衝動をお楽しみください。

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コメント

yuragiilll @HITOKIKO 蒸し蒸し地獄にやられソース思い出せないのであんまり真にうけないで下さい笑 ラーメンさんもかなりハードだったみたいですよ。https://t.co/KrmwkRvajyでもどたばたもたついた狂馬みたいな下手くそド… https://t.co/vEZQTu315S 2年以上前 replyretweetfavorite

kzmshz 相変わらず狂気と慈愛に満ちた文章に引き込まれる。 2年以上前 replyretweetfavorite

tez600 最高のアルバム : 2年以上前 replyretweetfavorite

hddz 基本曽我部さんを評価してる文章なのに何故か非常に苛つく。 > 2年以上前 replyretweetfavorite