正解するカド』が描く究極のコンタクト

作家・野﨑まど氏が脚本に参加し、大きな注目を集めるTVアニメ『正解するカド』。いよいよ終盤の本篇にあわせ、SFマガジン6月号と、今月24日発売の8月号に分割掲載されたSFレビュアー・林哲矢氏による第1話~10話のエピソード・ガイドを公開します! 視聴済みの方もこれから追いつきたい方も、お楽しみください。
©TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI.

〈SFマガジン〉本誌でも特集が組まれた『正解するカド』。野﨑まどが全話脚本ということで、興味を持たれた本誌読者も多いと思う。本稿ではここまでのストーリーを振り返るとともに、ファーストコンタクトSFとしての『正解するカド』の魅力について考えてみたい。

●第1話 「ヤハクィザシュニナ」

 舞台は2017年の日本。羽田空港を離陸しようとする旅客機の頭上に、突如、一辺2キロにもおよぶ立方体が現れることで物語は始まる。のちに《カド》という名と判明するその物体は、そのまま地上に降下、乗員252名ごと旅客機を飲み込んでしまう。日本政府はただちに対策本部を設置、天才理論物理学者・品輪彼方(しなわ・かなた)を中心に乗員の救出に当たるが、可視光以外、熱も粒子も一切放射せず、工具やエンジンカッターでは傷ひとつつかない未知の物体を前に手も足も出ず。ついには戦車砲まで持ち出すも無駄に終わり、絶望感が広がる中、立方体の上面が展開、《カド》に飲み込まれていた乗員の一人、外務省主席事務官の真道幸路朗(しんどう・こうじろう)と、ヤハクィザシュニナと名乗る存在が現れる。

 冒頭から「異種存在の巨大構造物」が到来だ。アニメなら『超時空要塞マクロス』の天から落ちてきた全長1200メートルの無人戦艦、小説では野尻抱介『太陽の簒奪者』の水星軌道で太陽を覆うリングや、ピーター・ワッツ『ブラインドサイト』の太陽系外縁で出会った巨大構造物。アーサー・C・クラーク『宇宙のランデヴー』の小惑星大の円筒型宇宙船ラーマ。数え上げればきりがない巨大構造物たちが太陽系を訪れているが、みなその途方もなさと、不可侵性で受け手を魅了してきた。もちろん、《カド》もその系譜に連なる資格あり。人類側のすべての干渉を奇妙なゆらぎとともに打ち消す様子も、頼もしい超越性を感じさせる。不可知のものとしての存在感が最大限に高まったところで、ついに登場する異種存在。つかみは万全である。

●第2話「ノヴォ」

 ヤハクィザシュニナと真道は、日本政府と直接交渉をしたいこと、3時間後までに準備を希望すること、旅客機の乗客は全員無事であり水や食料も供給されていることを告げ、カドの中に去った。日本政府はただちに全権を委任した政府代表団を組織、その代表に国際交渉官の徭沙羅花(つかい・さらか)を抜擢した。場面変わって《カド》の内部では今まで何が起きていたかが語られる。視界の利かない空間に閉じ込められた旅客機内で目覚めた真道たち。真道が機外の探索に出ると、突然視界が開け、中空の光からヤハクィザシュニナが現れた。いくどかのすれ違いを経て意思の疎通が図れるようになった彼は、乗客の解放と食料の供給を約束し、彼がこの世界にやってきた目的のため協力することを真道に求める。曰く、「この世界を推進する」ために。

 いよいよ姿を見せた異種存在と人類の交渉が始まると、当然「基礎知識の欠如によるすれ違い」が問題となる。「指導者に会わせろ」が決まり台詞の宇宙人来訪物一齣マンガをはじめ、草上仁やロバート・シェクリイなどのユーモア短篇の数々で、笑いをさそってきたファーストコンタクトの大定番。本作のヤハクィザシュニナも、乗客を解放するまでの時間を問われ二進法だの謎の単位だのすっとんきょうな答えを返したり、せっかく人類にあわせた姿を取ったのにいつまでも裸でいたり、どうにもどこかずれている。しかし、相手が超越的存在だと笑ってばかりもいられない。油断していると、会話という手段に気づく前に直接脳に情報を流し込まれて、死にかけることになる。

●第3話「ワム」

 滑走路に設けられた会場で、ヤハクィザシュニナと日本政府の交渉が始まった。彼は、この宇宙の外部である《ノヴォ》、異方から来たと説明。その証明として、日本側代表、徭の前に置かれたペットボトルを異次元を通して手に取るというパフォーマンスを見せる。つづいて、巨大な立方体《カド》は《ノヴォ》と宇宙の境界であり、取り込まれたものは適合処理をされていると説明。不慮の事故で飲み込まれた旅客機の乗員については再処置をすすめ順に解放すると聞き、安堵した日本側は、彼がなぜ日本に、そしてこの宇宙に現れたのか問う。日本を選んだのは余剰を他者に与える余裕のある地域だから、宇宙にあらわれたのは「世界を推進するために」と答えたヤハクィザシュニナは、異方から好きなだけ電力を取り出す《ワム》を代表団に手渡した。

 ここで、ヤハクィザシュニナが、この宇宙の存在ではなく、高次元(彼の主張によると、この表現は齟齬が多いらしい)から来たと明かされる。ファーストコンタクト相手として宇宙の外の人というのは、グレッグ・イーガン『ディアスポラ』や円城塔『エピローグ』などの他の例もあるが、本作は映像の力で「なるほど宇宙人ではなく、異世界人だ」と説得してみせる。

 そして《ワム》。「超越者からの贈り物」というのも、ファーストコンタクトのひとつの定番だ。「悪魔との契約」のバリエーションとして、貰った者が身の丈に合わない力に振り回され破滅するケース、それをきっかけに発展を重ねついには贈り手を追い抜くケースなどさまざまだが、本作ではどうなるか。日本はヤハクィザシュニナの言うとおり、「正解」することができるのだろうか。

●第4話「ロトワ」第5話「ナノカ」

 乗客のカドからの解放がはじまり、日本側に安堵感とヤハクィザシュニナへの信頼感が広まる中、日本がワムを独占している状況をめぐり国際的な圧力が高まっていく。日本代表が手をこまねいているうちに、ついに安保理は、日本がすべてのワムを国連に提出し、以後、国連管理とするよう決議した。さらに、日本がこの決議に従わない場合、軍事行動も含めた強制措置を行うという。国連管理下となれば核と同様、大国が独占し、異方側の望む全人類への拡散は望むべくもない。真道は、首相にヤハクィザシュニナが打開策を持っていることを告げる(第4話)。

 強引に、防衛庁の電波暗室につれてこられた品輪彼方の前に現れたヤハクィザシュニナと真道。研究用に大量のワムを与えられた品輪は、嬉々として実験を始める。一方、ヤハクィザシュニナを首相との直接会談に送る車の中、沙羅花はワムは人類にもたらされるべきでなかったと主張する。しかし、彼は「見解の相違だ」と取り合わない。ヤハクィザシュニナと会見した首相は、ワムを広く全人類にもたらすべきと確信。安保理決議への対応のタイムリミットが迫る中、全世界に向けた緊急記者会見を開き、日本が所有するワムをすべて国連に提出することを宣言するとともに、品輪博士が明らかにしたワムの作成法を公開する。ワムは形状だけが重要で材質は関係無い、コツさえつかめば、どんな貧しいものにも作れるものだったのだ。世界は大きな変革への一歩を踏み出すことになる(第5話)。

 第3話後半からつづくワム篇。世界を変える知識が、政治的圧力の前に秘匿されるという展開もまたファーストコンタクト物に限らずSFの醍醐味だ。5月日本公開の傑作ファーストコンタクト映画『メッセージ』でも、異星人の贈り物をめぐり各国が情報を遮断する場面がある。そして、その知識を拡散してしまうのもまたお約束。その系譜の中でも、材質にかかわらずただ折るだけで作れるワムは最も拡散させやすい部類だろう。しかも小は乾電池から、大は発電所まで、自動電圧調整でどんな役割もこなすのだから、まちがいなく下からの産業革命が世界各地で起きるはず。

●第6話「テトロク」

 ワムを折るコツはかなり難しく、数日を過ぎてもあまり広まっていなかった。ヤハクィザシュニナ曰く、ワムを折るには異方の感覚が必要で宇宙に最適化された大人には難しい、子供のような品輪だからこそ折れたのだと。世界の変革にはまだ時間の余裕があるらしい。一方、旅客機の乗客の解放は順調に進み、余裕の出た真道たちは、カドを羽田空港から移動させる計画を立てる。地面に常に接触している必要がある、日本政府との関係から東京をあまり離れるのは好ましくない等の制約から移転先を狭山湖畔に設定、全乗客の解放を待って移転が行われることになった。入念な準備の甲斐あって移転は無事成功。安堵する真道に対しヤハクィザシュニナは、ワムにつづく次の贈り物のことを告げる。人類はもう眠らなくてすむのだと。

 巨大なカドをどうやって東京湾から埼玉まで運ぶのか、その映像的面白さを楽しむ回になっている。サイコロを転がすように動いては、影響範囲が広がりすぎる。模型でその対策を思いつく場面は、大真面目な顔で遊んでいるようなそこはかとない面白みがある。そのテイストのまま次回につづくのかと思ったところで、真道がもう数週間眠ってないと指摘されるラスト。物の改変は受け入れられても、身体の改変は受け入れられるのか。

●第7話「サンサ」第8話「タルネル」


 カドの飛来から最前線で取材をつづけてきたレポーター・言野匠(ごんの・たくみ)は、検索・動画配信の世界的企業SETTENのCEO直々のヘッドハンティングを受けた。これを受け入れた言野は報道ヘリでカドに接近、異方存在への直接インタビューを試みる。ヤハクィザシュニナはこれを受諾。カドにヘリポートを生成し言野たちを受け入れた。インタビューの場でヤハクィザシュニナは人類の精神活動に影響するもの《サンサ》が入ったケースを言野たちの前に置く。それは、人類に異方を認識させる特殊な形状をしたものだった。安全の保証はないと知りつつケースの中をみた言野たちは、多数の次元に存在する自分を認識し、自分自身をワークシェアリングすること、たとえば別次元の自分だけを眠らせて、この次元の自分は眠らずにいることも可能になったと気づく。その晩、ヤハクィザシュニナの希望で地元のお祭りにいくことになった真道たち。祭りの最中、沙羅花は真道を連れ出し、ヤハクィザシュニナを異方に帰すことに協力を求める(第7話)。

 言野たちはヤハクィザシュニナの要請を受け入れ、サンサを世界に公開することを決めた。SETTENの所有する放送衛星網を用いて全世界同時に配信しようというのだ。日本政府は人体に影響があることからさすがに警戒するが、最終的には国際企業と治外法権を持つ異方存在の間のことで日本に妨害の権限はないと受け入れ、サンサは全世界の視聴者に公開された。首相はメディアを味方につけたヤハクィザシュニナの行動がどこまで加速するか危惧を抱く。一方、沙羅花は真道を連れ出し、自分を形作ってきたもの、愛するものを見せてまわった。この宇宙が自立してあること、宇宙の尊厳を守るためにヤハクィザシュニナを異方に帰したい。願いを聞いた真道はヤハクィザシュニナとの対話のためカドを訪れる(第8話)。

 この2話はサンサ篇ということになるが、人類の意識を異方化しマルチスレッドにするサンサ自体より、ヤハクィザシュニナの行為が本当に「正解」なのかという点のほうが前面に出てきた。3話の紹介でも触れたが、「超越者からの贈り物」もコンタクト物の魅力。受け入れた上でそれを消化して更なる高みに進むか、自らの力だけで歩くため拒否するか。進歩を是とするSFにおいては前者の立場が強いが、ティプトリー「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」のように、その罠を指摘する作品もある。簡単には「正解」の出ない難問だ。

●第9話「ナノミスハイン」第10話「トワノサキワ'」

 腹を割った話し合いを求める真道に、ヤハクィザシュニナはカド、ワム、サンサにつづく《ナノミスハイン》をみせる。それは異方を介して宇宙を操作する装置。質量すら操作する異方存在の腕だった。この力を急に与えられても生産が消費を大幅に上回るバブルが訪れるだけではと危惧する真道に、ヤハクィザシュニナは異方があるから問題ないと告げた。異方は、この宇宙の37乗のひろがりを持つ空虚な世界であり、常に新たな情報を求めている。その情報を生むため、さまざまな宇宙を作っている、さながら蚕の繭のようにと。そして、人類のいるこの宇宙は、無限に情報を生む貴重な繭なのだと。異方へ行かないかというヤハクィザシュニナの誘いに返答できない真道だったが、ヤハクィザシュニナは早すぎたかとカドがコピーした数時間前の真道を取り出し、こちらと置き換えようとする。そのとき真道を守ったのは、もうひとりの異方存在、沙羅花だった(第9話)。

 かつて、この宇宙の魅力にとらわれた異方存在が、己の情報の大半が失われるのも省みず、宇宙の中に身を投じた。その存在は、繭の「管理者」として宇宙の星々や生命、そして人間の営みを見続けてきた。そして、沙羅花となった彼女は、ヤハクィザシュニナの目的を問いただす。沙羅花と真道は、人類を異方に連れていくのは間違いだと説得を試みるが、ヤハクィザシュニナの圧倒的力の前に、真道は重傷を追い撤退を余儀なくされる。真道のコピーとともにカドの外に現れ、人類の異方化を推し進めようとするヤハクィザシュニナ。沙羅花と真道は彼と「交渉」することができるのか(第10話)。

 ここにきて、ついにヤハクィザシュニナの正体と目的が明らかになる。人類に強制的に超越をもたらす存在と考えれば、クラーク『幼年期の終り』や『2001年宇宙の旅』が思い出されるところだ。しかし、それが自分の欲望のためとなればどうか。物語は、究極のコンタクトともいえる「神との戦い」に入っていく。真道は神を止めることができるのか。また、神の力に触れた人類は、この後どうなっていくのか。

 以上、10話までのストーリーを追ってきた。次々起きる予想外の展開はさすが野﨑まど脚本。加速度的に大きくなってきた話もついに究極に達し、この知力勝負がどうなるかわくわくが止まらない。最後の交渉の結果、ワムやサンサと共存する世界が来るのか、元の世界に戻るのか、結末が楽しみだ。




『誤解するカド ファーストコンタクトSF傑作選』


『SFマガジン 2017年8月号』(6月24日発売)

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コメント

hidekih まどさんがカドを描いたと。ネタバレまくってる。 20日前 replyretweetfavorite

hidekih まどさんがカドを描いたと。 20日前 replyretweetfavorite

namae_muzukasi SF視点での 23日前 replyretweetfavorite

nabekiyo_tw あー、しまったー。そうだよ、野崎まど脚本だったんだよねー。 観とくべきだった…が、余力はなかったorz #スマートニュース 24日前 replyretweetfavorite