共和党議員 銃撃事件
先日、ポートランドの電車内での刺殺事件について書いたが、そのショックが冷め切らないうちに今度はバージニア州でチャリティ野球大会の練習をしていた共和党議員らが銃で撃たれる事件があった。
共和党院内幹事のスティーブ・スカリスは重体になっている。
駆けつけた警官に射殺された犯人は、イリノイ州出身のジェイムズ・T・ホジキンソン(66歳)で、襲撃の前に、そこにいた共和党議員に「練習しているのは共和党か民主党か?」と尋ねたという。
後に判明したのだが、ホジキンソンは大統領選でバーニー・サンダース候補のボランティアをするほど熱心な支持者であり、フェイスブックのバナーにはサンダースの写真を載せ、トランプ大統領への批判を書き連ねていた。
ホジキンソンは、選挙戦中に私が出会った熱心なサンダース支持者を連想させた。特に、予備選が終了して本戦に移行した後でも、ヒラリー・クリントン支持になることを「裏切り」とみなした人々だ。
怒りをもてあますアメリカ人たち
「ウォール街を解体せよ」運動の思想基盤を作ったことで知られるエリザベス・ウォーレン上院議員は、サンダース支持者の間で非常に人気があった。
しかし、本戦でヒラリー支持を表明したとたん、熱狂的なサンダース支持者らは、ソーシャルメディアで「エリザベスは魂を売った」「自分にとってエリザベスは死んだも同じ」と非難した。ウォーレンの顔がプリントしてあるTシャツを燃やしている写真をツイートしたサンダース支持者もいた。
サンダースは、ホジキンソンが自分の支持者だということが明らかになった直後に下記のようなスピーチを行った。
「(襲撃事件の犯人が)私の選挙キャンペーンでボランティアをした者だという報告を受けた」
「この卑劣な行為に胸が悪くなった。この際はっきりと言わせてもらうが、われわれの社会ではいかなる暴力も受け入れられないし、私はこの行為を強く非難する」
「真の変化は、非暴力的な行動のみから達成されるものだ。それ以外のものは、深層にあるアメリカの価値観に背くものだ」
しかし、サンダースがヒラリー支持を公表したイベントでは、サンダース本人に対してまで「裏切り者!」という野次が飛んだ。それほどアメリカ人の一部は怒りのエネルギーを持て余している。
アメリカが分断され、自分と少しでも異なる者への寛容性がなくなり、怒りのエネルギーが制御不能になっているのを実感したのが2016年の大統領選挙だった。
すべてのアメリカ国民のために尽くし、国民のお手本になるべき政界のリーダーたちが、国民を対立させ、怒りに火をつけて油を注いだこの選挙の全容を、拙著『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』に書いた。
その11章「暴力を正当化した大統領選挙」から下記を引用する。
トランプが最初に暴力を持ち込んだ
アメリカ大統領選は熾烈な戦いだ。汚い戦略もある。二〇〇〇年の共和党予備選では、ジョージ・W・ブッシュの選挙陣営が、ライバルのジョン・マケインについて、「黒人の隠し子がいる」と事実無根のスキャンダルを流したことがある。オバマとヒラリーが激しく闘った二〇〇八年の民主党予備選も、候補と支持者の心に深い傷を残した。だが、実際の「暴力」があちこちで見られるようになったのは近年では二〇一六年の大統領選が初めてだ。