池崎は、高畑と一緒にエンジェルロードにやってきていた。
エンジェルロードというのは、いわゆる干潮時にできる干潟のことで、小豆島の池田港からしばらくいったところにある離れ小島まで、春〜夏なら早朝・夕方ごろにできる小道のことを指している。夏休み中には観光客が溢れているがいまはまだ春先なので、それほど人はいない。
夕方のこの時間、崖上から階段を伝って浜辺に下りると、向こうの小島まで砂の道が続いていた。ちょうど干潮の時間のようだ。
「池崎くん、あっちの島まで行ってみようよ」
「いいですよ、僕は。この道もあと1時間もしたら海の中に沈んでしまうそうですから、あっちの島にはいかない方がいいですよ」
「なんだよ、年の割に保守的なんだな」
「え! 高畑さん、あなたがおかしいんですよ。なんで僕と一緒にエンジェルロードを歩こうなんて思うんですか!」
「だって、君といま一緒にいるからだろう。旅は道連れだよ」
さらに議論を重ねることに徒労を感じた池崎はすごすごと高畑の後ろをついて、エンジェルロードを歩いた。
「よし、ここでいいな」
エンジェルロードの真ん中まで来たときに、高畑が池崎の方を向いて写真を一緒に撮ろうと言い出した。
「バカ言わないでください。なんで恋敵と一緒に写真を撮らなきゃいけないんですか?」
「バカも何も一緒に撮ることに意味があるんだよ。だって、考えてもみなよ。ユウカさんは、僕らが喧嘩をしだしたことで車を突然降りて、どっかに行っちゃったんだよ。それなら、僕らが仲直りした姿を見せれば、戻ってくるかもしれないじゃないか!」
「は〜〜〜〜!!!」
大きな声をだして、池崎は異を唱えた。
「そもそも、この旅行にあなたがやってきたから、ユウカさんはどっかに行ったんですよ。あなたが来なければ、こうして男2人で旅する羽目になんかならなかったんだ」
「来てしまったものはしょうがないだろう。それに、ユウカさんは君だけのものじゃないよ。僕にも好きだって言う権利はある」
「ない!」
「ある!」
子供のような「ある」「ない」の言い合いが続く。とはいえ、この喧嘩の原因であるユウカがここにいない以上、解決はしないだろう。
高畑は、ポケットから携帯を取り出すと、無理やり自分と池崎の2ショット写真を撮った。
「何を撮ってるんですか!」
「いいよ、とりあえずこの写真をユウカさんに送るから。僕らがエンジェルロードで仲直りしたのを見たら、天の岩戸も開くだろう」
高畑は送信ボタンを押した。
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