地中には、思わぬものが埋まっている

土の中で育つ農作物の収穫は、金田さんにとって心が踊る作業。けれども畑には、作物ではないものも埋まっているようで……。金田さんがびっくり仰天した、白っぽい豆の正体とは!?

帰ってきたハサミ

秋の菜園は楽しい。

サトイモにサツマイモ、土から何かを掘り出すのは、なぜこんなにも心が躍るのだろう。

土に隠れて収穫まで姿を見せないイモは、期待と憧れに満ちた菜園家のロマンだ。

一方、我が畑では、時折ロマンのかけらもないものも出土する。

ある日、ハーブエリアの土から出てきたのは、ハサミだった。

2か月前に忽然と姿を消したハサミが、変わり果てた姿で現れたのである。

「土に還ろうとしたけど、無理だったんだろうね」

発見者の夫は、そう言って私をにらみつけた。

「なぜこういうことになるのか、一度じっくり考えてよ」

「なぜも何も、コイツが冒険の旅から帰ってきただけのことでしょ」

私は夫からハサミを奪うと、こびりついた土を払い落とした。


収穫のほか、紐を切ったり余計な葉や脇芽を取り除いたりと、意外とハサミを使うんです。


どういうわけか我が畑では、しょっちゅうものがなくなるのだ。参考までにベスト3をあげよう。

1位 ハサミ

2位 私の手袋

3位 草刈ガマ

である。

さっきまで使っていたものが、時空を超えたように突然消えるので、私は宇宙人かモノノケの仕業だとにらんでいるのだが、夫には空想を楽しむ趣味はない。

「キミがいつも道具をそのへんに置きっぱなしにするから、こんなことになるんですよ。どこに置いたかわからないものを捜すために、全畑仕事の5%を費やしているじゃないか」

5%なら大した時間じゃないわい。

「確かに私も悪いよ。でもね、ものをなくしやすいという畑の環境にも原因があるんじゃないのかな?」

「はあ?」

「交通事故は運転手の不注意で起きるけど、事故が起きやすい交差点っていうのもあるじゃない?」

夫は返事もしない。

「とにかくハサミはだれだってなくすんだよ。N村さんだってなくしてるはずだ」

「ありえない。N村さんは毎日手入れをして、家に持ち帰ってるよ」

隣の区画のN村さんは、クワを使うと、そのたび洗って拭いて乾かすという変人だ。でもハサミは話が別だろう。本人に聞いてみた。

「畑でハサミなくしたことある?」

「ないけど、なんで? ぼくになくしてほしいの?」


別の日。消えた私の手袋が、しばらくして突然畑に落ちていたことがありました。まるで空から降ったみたいに。


それも、こんな姿になって。いったい何があったのか、謎はいまだにとけません。

今はゴミでも、数千年後は

そんなN村さんの畑でも、あるとき、みょうな掘り出し物があった。

現場は、彼が新たに借りた区画だ。

我が農園には、春に契約を更新しない人が出ると、その空いた区画を乗っ取るメンバーがいる。N村さんもそうやって領土を拡大し、第二農園を借りたのだが、そこを耕していたら、土の中から出たのである。

土器が。


以前の借り主が放置していった植木鉢です。

残念ながら、考古学的価値はほぼない「平成土器」であったが、土器には違いない。縄文土器だって、縄文時代には、この植木鉢程度の価値しかなかったはずだ。

いっぽう我が畑では、土器よりはるかに価値のある遺物が出土したことがある。

ある日、土を耕していた夫が「化石が出た!」と叫んだので、すっ飛んで見にいくと、それは世にも珍しい化石だった。

バーコードの化石である。

要するに、買った苗についていた値札を、私がはがしてそのへんに捨ててしまい、それが粘土質の土に貼りついて出てきたのだ。


それにしても、うまいこと土に貼りついたものです。

「これはヒエログリフですか?」

夫はあきれ顔で、私にその化石をつきつけた。

私の始末の悪さを皮肉っての発言らしいが、私には、それこそが真実だと思えた。

発掘される古代の文字や道具なんて、案外こういうものなのだ。

ずぼらな人間がそのへんに投げ捨てたものが、何千年も経って出てきて、

「こりゃ何だ? 世紀の大発見だ!」と大騒ぎになるのである。

「後世に歴史を伝えるのは、私のような人間なのだよ。このバーコードの化石だって、末は国立博物館に展示されて、5時間待ちで見ることになるよ」

私は誇らしい気持ちで、その化石を再び土中深くに埋めた。

数千年後、バーコードの解読に必死になる人類が目に見えるようだ。


出土した豆

畑には、思いもよらぬものが埋まっている。ある日、私はとんでもないものを掘り出して心底仰天した。

といっても、掘り出したときは、それが何だかしばらくわからなかったのだが。

それは初夏。タネまきの準備のために、シャベルで土を掘り返していたときだ。土の中から、何やら豆のタネが出てきたのである。

「ここって、もうタネまいたの?」

夫に聞くと、「タネまきはキミの担当でしょ」という。そのとおりだ。私がまいてないなら、だれもまいていない。

私はしゃがみこんで、小さなスコップでそのへんを掘ってみた。すると、コロコロと、豆が出土したのだ。

インゲン豆に似ているそれを、私はひとつつまんでみた。

「うわっ!?」

驚いて、思わず取り落した。弾力がある、不思議な感触だったからだ。

「なんだこれ!?」

混乱した頭で考えていると、先ほどここにシャベルを突きさしたとき、土の中から逃げ出した生物の姿が思い浮かんだ。

「わーっ!」

「な、なんなの? 急に大きい声出して」

「これ見て、これ!」

間違いない。それは、トカゲの卵だったのだ。


爬虫類の卵を見たこと自体、生まれて初めてでした。
トカゲの卵はニワトリの卵と違って、硬くないのですね。

全米が泣くよ

「どうしよう、これ……」

命の重さに、持つ手が震えてくる。さっきまで親がいたということは、産卵中だったのだろうか。

「どうしようって、どこかに埋めてあげないとさ」

夫に言われ、我に返る。

「そうだね。この畝は使うから……」

私は、卵をすべてスコップにのせると、少し離れた休耕の畝にもっていき、「悪いけど、ここで育ってね」と、注意深く埋めてやった。

ところが、先ほどの畝に戻ってタネまきの準備を再開したとたん、何やら強烈な視線を感じたのである。

ふと見ると、すぐ脇のミツバの根元で、トカゲがこちらを凝視しているではないか。

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シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

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