第4章 すべては共同体へと向かう
わたしたちの暮らしに影響を与える〈場〉
「上へ、上へ」という中央集権的な上昇志向と、「外へ、外へ」という反逆クールは、いずれももう有効ではありません。わたしたちの生活は「横へ、横へ」とつながり、外に開かれたネットワークによって「ゆるゆる」を実現していく。
このような世界が具体化していくときに、ではわたしたちと企業や組織との関係はどのようなものになっていくのでしょうか?
ここで視点をひとつ、加えたいと思います。それは情報通信テクノロジーの視点です。ふたつのポイントがあります。
ひとつめは、新しいテクノロジーは、わたしたちが裸で世界にダイレクトに接続しているようなミニマリズム的感覚をもたらしてくれるようになること。
ふたつめは、テクノロジーは共同体をささえる装置に進化していくこと。
「反逆クール」な立ち位置からは、テクノロジーは中央集権的な抑圧する政府が、国民を監視するツールとしてつかっているというような陰謀論がよく語られます。そこからさらに進んで、資本主義化された世界には幸せなどなく、江戸時代のような古い共同体の世界に戻ることが良いのだ、という主張をしている人たちもいます。
しかしいま進行しているテクノロジーの進化は、そういう古い陰謀論とはかなり異なる様相を見せはじめています。
わたしはこの変化を『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)という2013年の書籍で詳しく書きました。ごく簡略に説明すると、21世紀になって加速している情報通信テクノロジーの革命によって、企業はたくさんの従業員を雇う必要がなくなり、企業が成長しても富は世界中にフラットにばらまかれ、その企業が属している母国を豊かにしないという状況をつくっています。
20世紀の大量生産システムは、巨大企業がたくさんの人を雇い、ものをたくさんつくり、それらのものが売れ、それで給料は増え、そしてその給料でまた人々はものを買い、生活が清潔で豊かになるという循環をつくりました。しかし21世紀の巨大企業はそのように人々を囲い込んでくれません。そうではなく、「プラットフォーム」と呼ばれるような基盤を何億人もの人々に提供し、国境をまたいで活動するようになっています。たとえばフェイスブックやアップル、アマゾン、さらには新興の民泊サービスであるAirBnb や相乗りサービスのウーバーなどの企業をイメージすればわかりやすいでしょう。そうした企業は少数精鋭で運営され、しかし莫大な資金を調達し、世界中でサービスを提供し、世界中の人たちに仕事や遊び、人間関係の基盤を提供しています。
わたしは『レイヤー化する世界』でそのような基盤を、〈場〉と表現しました。〈場〉は人々を囲い込み、上から支配するのではなく、下から支え、支配するのです。垂直に支配するのではなく、水平に支配するということです。
この〈場〉がわたしたちの暮らしにどのような影響を与え、そして〈場〉は、どのようにわたしたちの共同体を支えていくことになるのでしょうか。
その可能性をここから解き明かしていきます。
重なり合うネットとリアル
そもそも企業とわたしたちのあいだの接点が、いま大きく変わろうとしています。