一番おいしいカレーのレシピ」って言われても困るんですよ(笑)

これまで作ってきたカレーの本は100冊あまり、カレーのために出版社も立ち上げ、たくさんの「おいしいカレー」を究めてきた水野仁輔さん。そんなカレーの達人である水野さんが、「普通の材料でつくれる極限の味、その名もファイナルカレー」のレシピを記した、書籍『いちばんおいしい家カレーをつくる』が発売されました。今なぜ、「ファイナル」なカレーを作ったのか、うかがっていきます。(聞き手:加藤貞顕)

万能薬を出せと言われても

— このたび、cakes連載「ファイナルカレー」が、全面改稿して、『いちばんおいしい家カレーをつくる』として書籍化されました。
 今まで20年以上もカレーを研究してきた水野さんが、どうして、いま「ファイナルカレー」というレシピをつくったのか、あらためて教えてもらえますか?


普通の材料でつくる極限の味、その名も「ファイナルカレー」

水野仁輔(以下、水野) あの、僕はですね、今まで、「おいしいカレーって、どうやって作ればいいんですか?」っていう質問を、それはもう頻繁に受けてきたわけですよ。

— それは、そうでしょうね。

水野 で、正直に言うと、そんなことを聞かれても困るっていうのが、本音なんです。と言うのも、人それぞれ「おいしい」の好みは違いますよね。

— はい。辛いのが好きな人もいれば、こってりしたのが好きな人もいます。

水野 だから僕は、その質問をされるたびに、「あなたはどんなカレーが好きなんですか?」って逆に聞きかえしてきたんです。その人の「おいしい」がわかれば、それに合わせたおすすめのレシピ本を伝授しますよって。

— なるほど。

水野 で、この連載「ファイナルカレー」の打合せのときにも、案の定、加藤さんに聞かれたわけです。「いちばんおいしいカレー」を教えてくれ、と。ぼくは「ほらまたきた。それ、困るんだよな……」と思ったんですね。

— なるほど(笑)。

水野 で、いつもどおり、「どういう方向のカレーですか」「欧風とインドでは違うんですよ」とか「おいしさっていうのは素材の味わいを重視しているのか、旨みを重視しているのか、どっちを取るかによって違うんです」っていう面倒くさい話を始めたんです。
 そしたら、「あの、そういうややこしい話はいいので、お家で普通の材料でつくれる、一番おいしいレシピってありえるじゃないですか? 水野さん、みんなのおいしいの最大公約数を本当はわかってるんじゃないですか」って言われたんですよね。今まで、そういうふうに食い下がって、そこまで攻めてくる質問はなかったんです。

— ああ、たしかに水野さんの勢いに普通は引き下がるかもですね(笑)。

水野 そうですね。「カレーもいろいろあるけど、どういう方向のカレーですか」って聞いたら、みんな自分の好みを話すので、だったらこうしたほうがいい、ああしたほうがいいですねっていう個別カウンセリングをしていたわけですよ。

— 医師が処方箋を書くかのように。

水野 ええ。ただ、今回は万能薬を出せみたいなのが加藤さんのリクエストでした。

— ワガママを言いました。でもそれって、編集者の仕事なんですよ(笑)。

水野 いや、今までそういう質問はなかったなと思って。一方で僕は、カレーを作るテクニックっていっぱいあるんだけど、そのテクニックは一つのカレーで全部語れるっていう持論が昔からあったんです。

— なるほど。

水野 だからいつかやりたいと思ってたことの一つに、レシピ一つでまるまる一冊っていうレシピ本をいつかやりたいなと思っていて。でも、そんなこと理解してくれる出版社なんてなかなかないよなと思っていましたから。

— レシピ本って、普通は何十個もレシピが載ってますよね。この本には、欧風カレー、インドカレー、そしてファイナルカレーの3つしかない。


『いちばんおいしい家カレーをつくる』目次より

水野 ええ、たくさんあるなかから、自分の好きなものを選んでください、っていうのが、世の中のほとんどのレシピ本ですから。でも30のレシピがあって30を作る人はまずいないんですよ。

— きっとそうですよね。

水野 だいたい30品あって3品くらい。5品作ったら、結構がんばりましたねってかんじです。

— しかも多くのレシピ本って、「こんなの作れないよ」っていう難しいレシピや、あと、どこで買うんだろうっていう食材が出てくる本も多いんですよね。
 それで今回は、とにかく近所の小さいスーパーで買えるくらいの材料だけで、特別な道具も使わずに、自宅で普通につくれるものを、というかなりわがままなリクエストをしました。

水野 しかも、レシピ名は「ファイナルカレーで」って言われて。なるほど、これを機会に本格的に考えてみようかってなったんですよね。

寄り道をいっぱいしているのがよかった

水野 今回、cakesで『ファイナルカレー』の連載を始めた時に、僕のレシピ本を何冊も一緒に作っている編集者の人が読んで、「すごく新鮮で、おもしろかった」って感想をくれたんですよ。
 彼が言っていたのは、余分な話がいっぱい入っているのがいいと。たしかに、レシピの本筋以外のいろんな話が、入っているんですよね。

— ええ。カレーを作ってもらう横で取材しながら、なんでここで玉ねぎをどうしてこう切るのか、なぜ水をいれるのか、トマトは缶じゃないとだめなのか、などひとつひとつ説明してもらいました。

水野 しまいには、木べらが何十本もあるってとこから、木べらについて15分ぐらい話したりしているんですよね。カレーを煮込んだりしながら。
 やっぱりレシピ本を長年作っていると、材料や作り方っていうのは、必要最低限のものを、必要最低限の文字数でシンプルに伝えるんですよね。

— ええ、本だと紙幅の制限がありますし、そうなりますよね。

水野 だから紙のレシピをずっと出してきた感覚からすると、新鮮さがとてもあったんです。ウェブではこうするのか、と。それは勉強になりました。

— でも、この本も、レシピをぶった切って途中おびただしいコラムが入りますからね(笑)。

水野 そうですね。

— レシピの途中に見開きでたまねぎの炒め方の詳細が出てきたりしてます。これ、普通のレシピ本だと、おかしいですよ。

水野 たしかにね(笑)。

— でも、ここで読むべきことが書いてあると思っていれました。そういう意味で、この本は読み物として、頭からただ読むだけでも楽しめますよね。

水野 そうなんですよ。でも、レシピ本ってそもそもが、読み物でもあると思うんですよ。
 じつは料理が好きな人ほど、レシピが山ほど入っているようなバラエティ豊かなレシピ本を、読み物として読んでいるんです。要するに、自分が作るのは2個3個だけど、それ以外も見て楽しんでる。

— たしかに、ぼくもそういう読み方、しますね。

水野 材料を見て、作り方を見て、「ふんふん、こんなふうに作ってるんだね」って読んでいる。この本は読み物の部分が恐ろしく充実している一冊になりました。

— ええ。なので今回は、レシピ部分だけでなく、スーパーでどういう風に食材を選んだらいいか、調理器具はどんなものがいいのかまで書いてもらってます。にんにくの選び方とか、おもしろいですよね。

水野 にんにく、大事ですよ。

みんなが好きなカレーの代表「欧風カレー」

— 先程も聞きましたが、この本はレシピが3つしかないんですよね。最後の「ファイナルカレー」の前に、基本となる「欧風カレー」と「インドカレー」の2つのレシピが出ています。
 まず、この「欧風カレー」のレシピってどういうポイントがあるんですか?

水野 欧風カレーはまず、日本人みんなが好きなカレーの代表なんです。で、それは何が好きかっていうと、旨みとコクなんです。ホテルや洋食屋の欧風カレーはカレー粉と小麦粉を使いますが、家庭ではカレールウをつかいますよね。


牛肉とカレールウをつかったみんな大好きな欧風カレー

— そうですね。

水野 カレールウっていうのは、すごい万能なんです。ルウが入った時点で、旨みとコクは十分にある。

— ええ。

水野 でも、それだけじゃ、飽きたりませんっていうのが、今の日本のカレー好き。そこで、本当においしい欧風カレーをつくるときは、カレールウを入れる前に、すでに抜群においしいスープ料理にしないといけないというのが、僕の考え方なんです。

— そうですよね。このレシピでも、ルウは一番最後に入れています。

水野 その最後にルウいれる直前まで、いかに香味野菜から旨みを引き出し、焼き目をつけた肉を赤ワインでこそげ落とし、隠し味をいれて煮込んで、っていう風に、どうソースに旨みが生まれるのかっていうことを徹底的にやっているんです。

— たしかにすべてのプロセスが、どう旨みを出すか、に直結しています。

水野 で、ソースのベースにする素材とメインにする素材を明確に分けるってことが大事なんです。香味野菜はベースにするからつぶして脱水していく。牛肉はメインの具になるから、おいしさをちゃんと残す、みたいな。

— しかも、ひとつひとつの行程は、簡単ですよね。普通にできる。最後の煮込み時間は45分かかかるけど、調理している時間は意外に短いですよね。

水野 そうなんですよ。煮込みの間っていうのは、別にやることがないですからね。洗い物したりテレビでも見ておいてもらえれば。

— だから特別な手間をかけているわけではないですよね。なのに、めちゃくちゃにおいしい。普通に欧風カレーの一番おいしいものを目指したものが、この欧風カレーなんですね。

水野 自宅のルウカレーでこの味ができるのか!っていうのを目指しました。

— つづいて、インドカレーとファイナルカレーについてお話きかせてください。

次回、「『カレーのことはだいたいわかった』と言っても文句のつけられないレシピ」つづく

構成:中島洋一


【発売、即重版決定!】普通の材料でつくる極限の味、その名もファイナルカレー!


いちばんおいしい家カレーをつくる
『いちばんおいしい家カレーをつくる』

この連載について

いちばんおいしい家カレーのつくり方

水野仁輔

これまで作ってきたカレーの本は100冊あまり、カレーのために出版社も立ち上げ、たくさんの「おいしいカレー」を究めてきた水野仁輔さん。そんなカレーの達人である水野さんが、「普通の材料でつくれる極限の味、その名もファイナルカレー」のレシピ...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

phlogiston76 欧風カレーのレシピで作ったカレーは、え!?ってびっくりするくらいに美味しかったので、ぜひみなさんもお試しください 2年弱前 replyretweetfavorite

sadaaki ファイナルカレーについて書いた本「いちばんおいしい家カレーをつくる」をつくったきっかけはこちらの記事にあります。 2年弱前 replyretweetfavorite

8845musign “困る質問の定番が「 2年弱前 replyretweetfavorite

yuko88551 〔コラム〕 2年以上前 replyretweetfavorite