疑心暗鬼

結末

3度目の逃亡をしたター坊を連れ戻す。わざわざ親と住む家に行くということは、そういうことだ。もうター坊は、福岡吉本を辞めた方がいい。僕たちはそう願っていたのに、吉田さんと一緒にター坊の家に向かっていた。どうしても伝えたいことがあったから……。

 ター坊は、福岡吉本を辞めた方がいい。

 そんな願いを共有していたにもかかわらず、僕たちはタクシーの中で吉田さんに嘘をついた。

 なぜなら、わざわざ家に行くということは、吉田さんはター坊を連れ戻すつもりだったからだ。
 当時の僕たちと福岡吉本の関係性は、暴力団や暴走族のそれと似ていて、ここから抜け出そうとしても、そう簡単には許されない。
 それは2度の失踪劇を演じたター坊自身が、他の誰よりもわかっていたことだろう。
 おそらく今回も、すんなりとは辞めさせてはもらえないだろうし、もちろん、ター坊が怒りに震える吉田さんに、面と向かって「辞めさせてださい」なんて、言えるとも思えない。

 問題の先送りにしかならないが、今日のところは、辞めるという話はしない方が無難だろう。
 だとすれば嘘も方便、戻ってくることを前提に、今日は話が出来ないものか。

 というのも、僕たちはどうしても、ター坊に伝えたいことがあった。
 この数日で事態が急転したことを、まだ可能性は残っていることを、こんな折衷案が実現しそうなことを、どうしても今のター坊に知って欲しかったから、僕たちは咄嗟に嘘をついたのだ。


 昨日、新番組ではター坊に代わって華丸がメインMCを務めることが正式に決定した。

 つまり、稽古場であの苦しみをター坊が味わうようなことは、もうないのだ。

 そして、華丸が担当していた論客というポジションが、ター坊が稽古場で「こっちの役だったら、楽にやれるのになあ」と密かにボヤいていたポジションが、ひとつ空いた。
 そしてここには繰り上がり当選というか、繰り下がり当選というか、とにかく、ター坊が戻ってくれば、そのままここにター坊が起用されることは、疑いようのない事実なのだ。

 ここ数日の吉田さんやテレビ局の人の話を盗み聞きしていた僕からすると、これは確定事項だった。


 だから、ター坊!



 お前の居場所は、ここじゃないのかもしれないね。

 本当に東京へ行くのなら、なるべく早いほうがいいと思うよ。

 3度目の覚悟に水を差すのは申し訳ないけれど。

 僕たちだって、これ以上は引き留めないし、引き留められない。

 もう、お前がいなくなる覚悟は出来ている。

 ただ、それは今なのかな?  このタイミングで、本当に大丈夫?

 だって、テレビが始まるんだよ。
 面白いかどうかわからないけど、僕たちの番組が、みんなが出られる番組が、もうすぐ始まるんだよ。

 そこにター坊だけが出ていないって 出られたのに出られなかったって

 そんな状況に耐えられる?  ター坊の家族は、それで平気なの?

 絶対に、絶対に、後悔しない?

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疑心暗鬼

博多大吉

「どうして芸人になろうと思ったんですか?」一番多く投げかけられたこの質問に、いつも心の中で聞き返す。「どうしてみんな、芸人になろうと思わなかったんですか?」ーー時はバブルまっただ中。福岡の片隅で、時代の高揚感に背中を押された少年が抱い...もっと読む

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コメント

yuko88551 〔コラム〕 2年以上前 replyretweetfavorite

marekingu #スマートニュース 2年以上前 replyretweetfavorite

honey_kumquat もっと、ちゃんと最初から読んでおけばよかったー! 2年以上前 replyretweetfavorite

rivernono うおー!!!一連の連載最初から読んだほうがいいな 文章うまい… 途中で検索しなくてよかった… 2年以上前 replyretweetfavorite