「高畑さん、どうします? これから」
池崎は力なく高畑に訊ねた。ユウカが強引に車を降りたせいで、この車には池崎と高畑しかいない。池崎は高畑が恋敵であることを知らなかったが、会話をきっかけにそれがさっき発覚した。とはいえ、命の恩人でもある高畑を邪険に扱うことは池崎の性格上、難しかった。池崎は空席になった運転席に移動して、シートベルトを締めた。
「エンジェルロードでも観に行こうか(笑)」高畑はこんな時でもマイペースだった。
「……何言ってるんですか?」
「とりあえず、こうなってしまったんだからしょうがないだろう。急いで追っかけてもたぶん事態は改善しない。こういうときはお互い冷却期間が必要なんだ。それよりレンタカーのカードが必要なんだろう? ホテルに戻ろう。忘れ物で届いているはずだから」
「小豆島ベイリゾートホテルですよね」
「あぁ」
「じゃあ、このまま僕が運転します。ところで、昨晩はユウカさんと本当に何も……」
「何かあったと言ったら……?」
「……この車ごと海に飛び込みますよ」
「君もユウカさんと同じだな(笑)。何もなかったよ、神に誓って」
「ほ、ほんとですか? 神に誓うって……クリスチャンなんですか?」
「いや、仏教徒」
「……それじゃ、神に誓っても意味ないじゃないですか!」
「あはは、冗談だよ。うちの仏教は浄土真宗の流れだから、自由な分、自分で自分を律しないといけないから、実は厳しい宗教なんだよ」
「宗教談義はいいですよ。とりあえず、ホテルに向かいましょう」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。