男が「あそこ」に感じる底なしの恐怖
—— 6巻の帯にも大きく書いてある「あそこが怖い」についてお聞きしたいです。1巻からずっと提示されてきたテーマだと思うんですけど、どうして男にとっても女にとっても「あそこ」が怖いものになってしまったんでしょう?
鳥飼茜(以下、鳥飼) それは時代関係なくずっと怖れられていますよね。
—— 大昔から信仰や畏怖の対象になることが多かったですね。
鳥飼 宗教的な意味を持つ場合もあったし、怖いものだから管理・統制してきた歴史があったと思うんですね。特に男の人にとっては、自分は持っていないものだし、でも自分が出てきたところだし、自分の子供が生まれる場所でもあるし、すごく底なしの恐怖を感じるところではあると思いますね。
—— 女性にとってはどうでしょう。「あそこ」の恐怖は、自分の体に内包されているという怖さなんですか?
鳥飼 男性も女性も限らず、すべての人が怖いわーって思ってるわけじゃないですよね。だけど、女性は実感として自分のあそこがどうなっているのか知ってる人が少ない。仮に知っていたとしても、半数くらいは最初に性交したときに男の人に教わってるわけですよね。十代の女の子だと、男の人がどうするのかに頼らざるをえないから。
—— 昔に比べると、現代はみんな自意識が強すぎるのかな、と感じました。
鳥飼 そこはあるかもしれないですね。昔は春画なんて執拗にあそこを描いていたし、もっと最近でも、私のおじいさんぐらいまでの人たちって、平気で「オマ●コ好きだろ」ってことを言ってましたよね。その世代に比べると今の人たちって、例えばストリップ連れて行ったらドン引きする人が多いと思うんです。多分今の若者にとって、ストリップは結構怖いと思う。
—— ああ、確かにそうかもしれません。
鳥飼 美鈴先生の設定を24歳にした初代担当の方も、当時40過ぎだったんですけど、新妻くんの設定の話をしている時に「普通男だったら据え膳いっとくでしょ」みたいなことをポロっと言っちゃう感じで。最初連載するにあたって、男と女の認識の違いについて打ち合わせてたんですけど、「極端な話、道端で裸の女性が酔ってヘロヘロになっていて『やっていいよ』って言ったら、結局男は行列作るよ」みたいなことを言うんですよ。え、待って、って。たぶんそれ若い子そんな女の人怖過ぎて行列しないでしょ、って答えたんですけど。別にその人の中に女性蔑視みたいな意識もなくて、その世代では普通の考えなんです。男女の感覚の差だけじゃなくて、世代でも違いがある。
—— そういう意味では、『地獄のガールフレンド』に描かれていた「男のコもかわいい彼女みたくちやほやされたい」は、今の世代を表すすごい発見ですよね。
鳥飼 「彼女彼氏」ですね。でも多分その40代くらいの世代の人も感じていたことだと思うんです。でもそこでやるのが男だ、という感覚がまだあったから一回踏ん張ったんだけど、その下の世代は「踏ん張るの損じゃない?」って思い始めた。女も男も平等だし、女も男と同じように稼いでる。蓋を開けたら全然そうじゃないんだけど、そういう世相の中で、なんで同じ稼ぎの男が奢らなきゃいけないの? なんでリードしなきゃいけないの?とは思っちゃいますよね。
—— 今でもネットに「デートで奢らない男は問題外」みたいな記事が平気で上がってたりもしますよね。
鳥飼 私の世代だとまだ男女で鍋やっても、野菜を切るのは女、洗い物は女みたいな押し付けられ感、あるいは率先してやらなきゃ感がありました。女の人ばっかり押し付けられてるなってその時は思ってたんですけど、『地獄のガールフレンド』で気がついたのは、男も押し付けられているってこと。多分先に押し付け始めたのは男なんだろうけど、今の男の人たちが圧迫を感じているから、それが女の子に向かってくるんじゃないかって。