23歳男性。生後一週間でマクローリン展開をする。四歳でハーヴァードに入学。六歳で数学の博士号を取る。二十歳で万物理論を完成させたのち、「コミュニケーション」の発明を行う古見宇発明研究所を設立する。
ニケ
32歳女性、千葉県出身。古見宇研究所助手。好きなものは竹輪とGINZA。嫌いなものはセリーヌ・ディオン。「宇宙の解」を知って絶望していた博士に「コミュニケーション」という難題を与え、結果的に古見宇研究所の設立に繋げる。
前の会社の飲み会に誘われたのは、三日前。部長が転職するらしく、その送別会をという話だった。
私はその飲み会に参加するか悩んでいた。誰が来るのかわからなかったし、もし上司がたくさん来ているのなら、きっと飲み会は盛り上がらない。上司が自分の話をして、みんなでそれを聞くだけの会になる。
「あ、ニケ君は今、レベル1で悩んでいるね」
博士は研究室から出てくるなりそう言った。怪しげな、縁のない赤いサングラスをかけている。
私は「レベル1ってなんですか?」と聞いた。きっとまた何か発明品でも作ったのだろう。
「悩みレベルスカウター《ベジータ》で、君の『悩みレベル』を測定したんだ」
「悩みレベル?」
「人間は日々、いろいろなことで悩む。悩みにはいろんな深さがあって、深さに応じて適切な解決策が異なってくる。重要なのは、その悩みの『悩みレベル』がいくつなのかを特定することなんだ」
「ちょっと、どういうことかピンときません」
「たとえば、彼氏の浮気を発見した友人がいて、そのことを相談される。『浮気するなんて最低! 今すぐ別れちゃいな!』と言ってあげるのは簡単だし、それが正解かもしれない。でも、その友人は『浮気されたけど、それでもまだ交際を続けたい』と悩んでいるのかもしれないし、『今までいろんな男に浮気されてきた経験』に悩んでいるのかもしれないし、『浮気ぐらいで傷ついている自分』に悩んでいるのかもしれない」
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