第3回】俗説バスター・統山計子(前編)

この世にはびこるウソを数字や統計を使い、ぶった切る! 俗説バスター統山計子参上! 数字や統計を使って“見抜く”力がなぜ必要になるのか。統山家を通して理解してみよう。

 「ふあ~あ。おはよう……」

 大学卒業後、就職に失敗して派遣社員に。最近は家に引きこもりがちでネットばかり見ている。絵に描いたようなニート。それが統山計子の弟、統山圭だ。

 「あら、圭ちゃん、今日は早いのね」。母親の問いかけに対して、面倒くさそうに圭が答える。「まあね。ニートもたまには早く起きなきゃね。というか、朝まで起きていただけだけど」。

 もう28歳になる圭は統山一家の悩みの種だ。今の境遇はすべて社会のせいだとふてくされている。「そろそろ就職したらどうだ?」と心配する父。「あのね、父さんの時代と違うんだよ。今は氷河期で就職できる学生の数が少ないの。んでもって、俺らの就職の時は、非正規雇用が増えて就職する学生数が減ったの! 大変なのっ!」。

 就職氷河期で正社員は減り派遣社員が増え、しわ寄せは若者に……。半ば常識のように語られることだ。しかし、計子はデータに裏打ちされた事実以外は信じない。飲んでいた牛乳瓶を机にたたき付けて立ち上がった。

 「あ~! もう、ほっ統計(とけ)ない!」

 「ひっ」と、のけぞる圭に対して、計子がまくし立てる。

 「あのねえ、就職する学生の“数”は減っていないの。大学を作り過ぎて学生の数が増えたから“率”が下がっただけなのよ! それに、正社員の比率も下がってないわ!」

 実は、計子の言うように企業に就職する大学卒業者の数は減っていない。景気の変動により上下するものの、近年はバブル期の年平均約30万人を大きく上回る水準の年がほとんどだ。

 一方でバブル期に比べて大学数は7割増、学生数は6割増と採用数以上に膨れ上がっている。だから、就職“率”が悪くなるのは企業側の問題だけでなく、大学乱立も大きく影響している。さらに、非正規雇用の増加が指摘されるが、生産年齢人口当たりの正社員比率は減っていない(図1‐1)。

 「率で見るか、実数で見るかによって印象が激変するのよ」「う、うん。あ、姉ちゃん、もう8時過ぎているよ!」「ぎゃー! 遅刻!」

 走り去る計子に向かって圭は「姉ちゃん! 俺、働くよ」と決意の叫びを投げかけるのだった。

実感と離れる平均貯蓄額
高齢出産「35歳」は無意味?

 大手商社で働く計子。職場にもまた、俗説が満ちあふれている。

 「あ~あ、まったくゆとり世代は、本も読まないからねえ」

 今日も課長の根知山根知男が若手の若山若男に絡んでいる。課長は粘着質が服を着て歩いているような男で、上司へのごますりだけで出世してきた。

 「報告書もうまく上げられないのかねえ。言ったでしょ、シンクタンクが発表していた百貨店の年末商戦のそれらしい数字を入れてくれって。いいの、形だけでも入れてくれれば。やんなっちゃうね~、ホントに」

 イライラしながらやりとりを聞いていた計子だったが、我慢の限界だ。

 「あ~! もう、ほっ統計(とけ)ない!」

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最強の武器「統計学」【2】~もう、ほっ統計(とけ)ない!—統計的思考を鍛える

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「この世にはびこるウソを数字や統計を使い、ぶった切る! 俗説バスター統山計子参上!」――数字や統計を使って“見抜く”力の必要性を、ストーリー仕立てで解説。またコラムでは、統計学の視点から、2大ギャンブル・パチンコと宝くじの「上手な負け...もっと読む

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