あー、めんどくせー」が口グセの生徒の数年後

都内の某私立高校で教師をしている30歳前半の海老原さんが、学校内で起こるさまざまな出来事を綴っていく本連載。今回は、海老原さんが入学当初からずっと見守ってきたとある男子生徒のお話です。「あー、めんどくせー」が口グセだった彼は、高校3年生になった今、どのような人間に成長したのでしょうか。

この4月からは、高校3年生の担任となった。

彼らが入学した2年前の4月、僕もこの高校で働くようになった。それから日々の学校生活を、この学年と過ごしてきた。来年の3月になったら、生徒たちが学校からいなくなると思うと、今からもう淋しい。

この仕事をやっていると、知らずしらずに生徒の「成長」を見つけることがしばしばある。

その成長が、ふつうの大人からしたら小さなものでも、日ごろ彼らと接する僕からしたら、とても頼もしいと思えたりする。

今日は、そんな、ささやかながらも力づよい成長の話。

げんなりしていた2年前のホームルーム

高1のとき僕のクラスだったその男子は、入学当初からすでにダラしなかった。

うちの学校は、上履きの指定がない。生徒はめいめい用意した上履きをはいているから、外履きなのか上履きなのか、判断が難しいこともしばしば。けれど、その生徒の足元は、はっきりわかる外履きのことが多かった。

「おい! 何回目だよ! ちゃんと上履きはけよ!」

こんなやりとりで朝のホームルームを始めることが、何度もあった。外履きのまま教室に上がると、どうしたって床が汚れる。とくに、雨の日は不潔になる。

注意しても直らず、いいかげんしびれを切らして家庭に連絡しても、「ほんと、あの子のへそ曲がりには手を焼いてまして……」と、逆に助けを求められてしまった。

「放課後、教室を掃除してくれる人たちに申し訳ないでしょ? 掃除ってほんっっっと大変だからね! 自分たちで掃除してた中学時代を思い出してみろよ~」

と僕が下手に出たところで、ふた言目には、あーでもない、こーでもないと言い訳が始まる。まー、口がよく回る!

「この学校に100人はいますって、外履きのままのやつ」

他者への想像力がおよばない、子どもじみた弁明に、2年前のホームルームの朝、僕はたびたびげんなりして、叱った。

「あー、めんどくせー」が、彼の決まり文句だった。言葉につまると、すぐこう言った。間接的な“敗北宣言”と僕は都合よく受け取っていたけど、今思えば、ただ単にめんどくさかっただけなのだろう。

彼はワルになりきることもなく、注意されたら、すぐ履き替えに行った。あたかも朝のやりとりはジャブ(軽いパンチ)の応酬のようで、先生という権力者への「抵抗」の練習をするようだった。

だとしたら、「壁」たる僕も手抜きするわけにゃいかない。ちゃんと立ちはだかろうと思って、しつこく叱った。彼も僕も、1年生。はたから見れば、子どもじみたゲーム。それでも真剣だった。

かといって、僕らの関係は険悪になるでもなかった。彼は、1年の4月から入った部活でウマが合わず、夏を過ぎたところで退部した。その後、放課後のエネルギーを持て余した彼は、何かと相談してきた。

映画が好きだから、DVDで観れるオススメ教えてほしいす。

うーん、でもまずは映画館じゃない? 放課後ヒマなら、ちょっと足伸ばして渋谷のミニシアターとか行ってこいよ。人知れず、こっそり「孤」に没入する感じって、大事だと思うけどな。

その後しばらく日が経って。

映画も好きなんすけどね。でも動きたいっていうか。太っちゃったし……。

今スケボーはまってんだろ? 極めてみれば? あいつら(クラスメート)と、色んなとこのリンク行ってるって聞いたけど。

知ってたんすか?

どうせやるなら世界をめざせよ。面白くもない世を面白く、って感じ。

僕はハッパをかけた。

熱しやすく冷めやすい彼

「センセー、スケボーを学校に持ってくるのってダメすか? もちろん学校じゃ危ないからやらないんすけど、◯◯先生にちょー怒られた……そんなの持ってくるなーっっっ!って」

秋ごろのホームルームで、彼はこう訴えた。ときに上履きは履かないわ、ガムは噛むわの彼だけど、スケボー持参は校則違反じゃない。彼の身なりとスケボーで、教師側が安直に「悪」とラベルを貼ったのだろうか。

「ぜんぜん問題なし。明日も持ってこいよ。次、何か言われたら、海老原の許可を取ってるって言えよ」

こうして、1年目にスケボーにはまった彼。けれど、その熱は高2であっという間に冷めた。新しい友人の影響を受け、今度は即興ラップに目覚めたのだった。

そして3年目の今。結局は、部活に汗を流してる。それも、よりによって僕が顧問をする野球部で。

ジェットコースターのように速い展開。熱中するターゲットを新たにロックオンしたら、無邪気にスッとはまる。そして、熱しやすく、冷めやすい。

別に悪いことじゃない。むしろすがすがしい。やりたいことは色々模索すればいいじゃないかと思う。自分もまた、社会人、留学生、ニート、バイト講師、そして教師だったりと、変転の人生だったから。

野球経験者ということもあって、今、彼はわりと真面目に部活に参加している。遅刻はするわ、すぐネガティブなこと言うわ、グラウンド整備こっそりサボるわ、怠慢なミスを叱られるとすぐいじけるわで、「あー、めんどくせー」なヤツだけれど。

「ザ・自分本意」だった彼が…
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教室では言えない、高校教師の胸の内

海老原ヤマト

一般企業に就職した後、私立高校で先生をすることになった30代前半の新米教師が、学校内で起こるさまざまな出来事を綴っていきます。教室や職員室での悲喜こもごも、そして生徒の言葉から見えてくる、リアルな教育現場とは?

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wol564b =コラム= 3年以上前 replyretweetfavorite

pek5845 -コラム- 3年以上前 replyretweetfavorite

tky564bdx 『コラム』 3年以上前 replyretweetfavorite

msk3345 {コラム} 3年以上前 replyretweetfavorite